『週刊プレイボーイ』でコラム「古賀政経塾!!」を連載中の経済産業省元幹部官僚・古賀茂明氏が、安倍首相の体調不良説とポスト安倍の動きについて語る。

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盆明けの17日、安倍首相が慶應義塾大学病院に検査入院したことから、体調不良を理由とした退陣説もささやかれるなど、政界を中心に波紋が広がっている。

官邸は6月に受診した人間ドックの追加検診にすぎないと、体調不良説を一蹴するが、健康問題は政治家にとって最も触れられたくない事柄のひとつ。しかも、首相には過去に持病の悪化で政権を投げ出した前歴もある。

それだけにこの時期に、無用な詮索を生みかねない検査入院をするのはやはり異様だ。こうなると首相重病説の真偽などは別にして、ポスト安倍の動きは加速せざるをえない。

興味深いのは最近の世論調査だ。「次期首相にふさわしい人は誰か」という問いに、自民党支持者に限ってみた場合、これまでは安倍首相が4割近い支持を集めて断トツ1位の座をキープしてきた。自民支持層が首相の続投を望んでいるのは明らかだったわけだ。

ところが、最近は1位が石破茂元防衛相、2位に小泉進次郎環境相で、首相は3位に後退という調査結果が増えている。自民支持層での安倍支持率が急落しているのだ。

象徴的なのは、普段から右翼層の書き込みが多くあるネットのニュースサイトで、首相が夏休みを取りたがっているという記事へのコメント欄には「国会もろくに開かないのに休暇が欲しいとは」「給料ドロボー」などの批判があふれていたことだ。

その原因はコロナ対応のまずさだけではない。あるネット分析によると、これらのコメントの多くはそれまで首相を熱心に応援してきた右翼の岩盤支持層の人々だ。改憲論議もせずに国会を早々に閉め、公邸に閉じこもりがちな首相に、米トランプ大統領のような強いリーダーシップを望む右派層が愛想をつかして離反しているというのだ。

一方、私が注目するのは、河野太郎防衛相だ。首相への不満を強めた右派層が続々と支持に回り、次期首相候補の4位に急伸している。河野防衛相は無党派リベラル層の人気も高く、支持層が広がることで、次の首相選びでは台風の目になる可能性がある。

そのほかにも首相意中の後継者とされる岸田文雄自民党政調会長、高齢ながらワンポイント登板なら可能性ありとして、麻生太郎副首相や菅義偉(すが・よしひで)官房長官の名前も急浮上している。石破氏も含め、こうした人々を中心に与党のポスト安倍争いは一気に激しさを増すことだろう。

それに比べると、野党の動きはなんとも心もとない。立憲、国民が合流して150人規模の新党を作り、自公政権に対抗しようとしているが、その中心としてニュースに流れる顔ぶれは、新党代表になると目される枝野幸男氏のほか、小沢一郎氏、岡田克也氏、野田佳彦氏といった旧民主党の幹部だった人々。古い民主党の焼き直しにしか見えない。

野党の党勢拡大には、党首は暫定にとどめ、来年早々にも党員選挙を実施して新代表を決めるべきだ。あまり認識されていないが、野党には小川淳也氏、田嶋要氏、後藤祐一氏ら、当選5回前後組を中心に逸材が多い。こうした人々が新党の新しい顔として党首選に名乗りを上げ、論戦を交わせば、野党への関心は格段に高まるだろう。

いずれにしても首相の検査入院で、ポスト安倍レースの号砲が鳴った。安倍首相が任期を全うしても来年9月まで。新しい日本の首相選びに要注目だ。

●古賀茂明(こが・しげあき)
1955年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して11年に退官。『日本中枢の狂謀』(講談社)など著書多数。ウェブサイト『DMMオンラインサロン』にて動画「古賀茂明の時事・政策リテラシー向上ゼミ」を配信中

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