『週刊プレイボーイ』で「挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが、11月の米大統領選挙で「バイデン政権」が発足した場合の対中国政策について語る。

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11月に行なわれる米大統領選挙の民主党候補ジョー・バイデン氏が、カマラ・ハリス上院議員を副大統領候補に選出しました。ジャマイカ出身の父とインド出身の母の間に生まれた元法曹家のハリス氏はブラック・ライブズ・マター(BLM)運動に賛同の意を示し、国外の人権問題にも積極的に関わっていくというスタンスを表明しています。

そんな"人権派の黒人女性"をパートナーに選んだことが、「バイデン政権」の外交政策、特に対中国問題に大きな影響を及ぼす可能性が指摘されています。なぜなら、中国・習近平(しゅう・きんぺい)政権による人権や民主主義の否定を、トランプの次の政権はあらゆる意味で看過することができない状況になりつつあるからです。

いろいろなものを破壊してきたトランプ大統領ですが、将来評価されることがあるとすれば、それは中国に対する"外交上のクッション"を取っ払ったことかもしれません。

「香港は一国二制度によって守られる」「経済的に豊かになれば中国はいずれ民主化する」といった西側諸国の期待――それは見方を変えれば、中国との対決を避けるためのクッションだったということもできるでしょう。中国の人権問題や環境問題などに見て見ぬふりをし、安価な労働力と巨大市場にアクセスし続けるための一種の方便(もっとはっきり言えばウソ)です。

しかし、トランプ政権はそのクッションを蹴り飛ばし、全面対決も辞さない姿勢を示し続けている。これで習近平政権も引くに引けない状況になり、香港問題をはじめ、いよいよ馬脚を現した感があります。

トランプ政権が中国と対立する動機はあくまでも経済的なディールであって、人権や環境の問題を本気で改善させようという気はさらさらないでしょう。しかし、ハリスとのコンビでリベラルを前面に出すことを選択したバイデン政権が誕生した場合、そうはいきません。

米国民だけでなく、国際社会からも「中国の人道問題に踏み込め」というプレッシャーがかかる上、いまさら新しく"クッション"をつくることもできない。つまり、中国に対して本当の意味での変化を強く要求するしか道はないのです。香港問題のみならず、場合によってはウイグル族やチベット族への弾圧に関しても"制裁"を科す流れになるかもしれません。

一方、習政権からすれば、たとえ人権(ヒューマンライツ)というものが国際社会のルールであったとしても、それを外から強要されるのは"許しがたい内政干渉"でしょう。また、アメリカに対して弱腰な姿勢を見せてしまうと、身内からの突き上げや裏切り、あるいは国内世論の反発も予想されます。

だから、どこまでも強硬に出なければいけない―つまり、バイデン政権発足後の米中対立は、現在の経済対立よりも一段階上の「イデオロギー対立」にまで発展する可能性があるというわけです。

聞きかじったような情報を単純に信じて「バイデンは親中派だから米中関係はよくなる」などと考えている人も少なくないようですが、このように米中両国のデカップリング(切り離し)はますます加速する可能性も十分にある。そうなれば、「経済は中国、安全保障はアメリカに依存」という日本のスタイルは、もう通用しなくなるかもしれないのです。

●モーリー・ロバートソン(Morley Robertson)
国際ジャーナリスト。1963年生まれ、米ニューヨーク出身。『スッキリ』(日テレ系)、『報道ランナー』(関テレ)、『所さん!大変ですよ』(NHK総合)、『Morley Robertson Show』(Block.FM)などレギュラー出演多数。2年半に及ぶ本連載を大幅加筆・再構成した書籍『挑発的ニッポン革命論 煽動の時代を生き抜け』(集英社)が好評発売中!

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