『週刊プレイボーイ』で「挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンがアメリカ社会の分断を加速させる大統領と巨大企業を批判する。

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アメリカ社会の分断が止まりません。黒人男性が警官に背後から銃撃を受けたことに端を発した大規模な抗議デモに対し、17歳の白人少年が銃を乱射して2名が死亡――ウィスコンシン州ケノーシャで起きたふたつの事件は、今の米社会を象徴しています。大統領選挙まで2ヵ月を切るなか、現職のトランプ大統領と民主党候補のジョー・バイデン前副大統領も相次いで現地を訪問しました。

この分断を最も"上流"からあおるトランプは、デモ隊に乱射した17歳の容疑者を「彼はやらなければ殺されていたかもしれない」と擁護し、全米各地でBlack Lives Matter(BLM)デモの一部が暴徒化する動きを「国内テロ」と断罪。

米社会に明確に存在する人種差別とそれに伴う不当な教育・経済格差という問題を直視するどころか、むしろBLMを心のどこかで苦々しく思う白人層の差別感情を"燃料"とし、薪(まき)をくべ続けています。「もし州兵が派遣されなかったら、ケノーシャは(デモ隊に)焼き尽くされていただろう」という言葉はまさに象徴的です。

一方、その"下流"では、有象無象(うぞうむぞう)の右派系サイトが世の中にあふれる情報をパッチワークして壮大な陰謀論を紡ぎ、拡散しています。まだ"免疫"のないピュアな若者たちも含め、乾いたスポンジのようにそれを信じて吸い込む人たちが、陰謀論と怒りの感情をまた拡散していく......というスパイラルです。

デモ隊に乱射した17歳の少年は、「第2次南北戦争(=アメリカにおける内戦)」を掲げる「ブーガルー運動」が関係する呼びかけに応えてケノーシャへ赴いた可能性が指摘されています。

ブーガルーは多くの右派系運動に比べ歴史が浅く、年齢層も若く、より急進的で"実行動"に重きを置く(もちろんデモ隊への発砲は犯人個人の行動ですが)。

新型コロナ禍のロックダウンに際し、ブーガルーは「マスクをつけない自由を無視し、装着を強制する"影の政府"の陰謀を許すな」「次は影の政府がわれわれから銃を奪う」などと主張して運動を活性化させていきました。

当初ブーガルーは右派系の掲示板で広がり、続いてFacebookが拡散のプラットフォームとなりました。暴力をチラつかせる扇動、ヘイトをあおる陰謀論を放置していると批判されても、Facebook側の対応は常に後手後手。

今回も「ケノーシャ自警団」を名乗る集団が武装を呼びかけたことに関し、400件を超す通報があったにもかかわらず、Facebookは対応を怠っていました。

同社のマーク・ザッカーバーグCEOは今回の対応を謝罪しましたが、何度この光景を見てきたか。批判があっても「表現の自由」を盾にはね返し、事件が発生すると謝罪し、問題の投稿だけを削除。ヘイトや陰謀論の温床になっているという根本的な問題を正そうとはしない。

そんなFacebookの時価総額は世界第6位で、ザッカーバーグCEOの純資産はこの夏、初めて1000億ドル(約10兆5600億円)を超えました。

大統領や世界有数の巨大企業が、社会の分断を栄養として支持や資産を肥やしている――これは民主主義や資本主義の限界なのか。それとも、新しい民主主義が構築される前の"生みの苦しみ"なのか。後者であると信じたいですが、それにしても米社会のダメージは深刻です。

●モーリー・ロバートソン(Morley Robertson)
国際ジャーナリスト。1963年生まれ、米ニューヨーク出身。『スッキリ』(日テレ系)、『報道ランナー』(関テレ)、『所さん!大変ですよ』(NHK総合)、『Morley Robertson Show』(Block.FM)などレギュラー出演多数。2年半に及ぶ本連載を大幅加筆・再構成した書籍『挑発的ニッポン革命論 煽動の時代を生き抜け』(集英社)が好評発売中!

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