一般的なものより長く大きい綿棒を挿入し、10秒ほど回転させて便を採取する。被験者が横向きに寝る「シムス体位」は直腸診察時の正常位だ

新型コロナウイルスの感染を抑え込んでいる中国では、今年1月より直腸から便を採取するPCR検査が実施されている。

米外交官が中国に入国する際、空港検疫所で「肛門PCR」による検体採取を要求されたことに対し、米政府は中国に抗議。さらに日本政府も訪中する日本人への肛門検査はやめるように要請した。

この「肛門PCR」はそんなにも恥ずかしい検査なのか。ナビタスクリニック(東京・立川)にご協力いただき、実際に検査(採取のみ)を体験した本誌記者はこう語る。

「下半身裸で四つん這(ば)いになると思って緊張していましたが、実際はズボンとパンツを少し下ろして、横向きに寝るだけだったので羞恥心は薄かったです。

綿棒を挿入されたときは肛門に異物感を覚えましたが、痛みは一切なく、10秒ほど綿棒を回転させて採取自体は終了。気合いを入れていた分、想像よりもあっけなかったという印象です」

肛門PCRの利点を、同クリニックの久住英二医師はこう話す。

「コロナ流行当初は、鼻に綿棒を入れて鼻咽頭(びいんとう)の粘液を採取するPCR検査が主流でした。しかし、どうしても被験者のくしゃみやせきを誘発してしまうため、検査する人の感染リスクが高く、防護具を着用する必要があった。

そこで導入されたのが唾液によるPCR検査です。被験者に唾液をためさせるこの方法は、感染リスクも低く防護具も必要ない。診断精度も90%と、鼻咽頭のPCR検査と同等だといわれています。ただ、懸念する点があるとすれば、直前の飲食などで感度が下がってしまうことです。

肛門PCRは唾液PCRと同様に安全な上、飲食などによる感度の低下もありません。また、肛門PCRは探知できる期間がほかよりも長いんです。鼻咽頭や唾液でのPCR検査で陰性でも、肛門ではウイルスが検出できることが複数の研究で報告されている。

コロナを完全にシャットアウトしたい中国のような国は、偽陰性の確率を下げるためにも実施する意味はあると思います」

鼻咽頭・唾液・肛門。すべての検査を経験した本誌記者が、一番痛かったのは鼻咽頭PCRで、時間がかかったのは唾液PCRだった。

恥じらいさえなければメリットが多いように感じる肛門PCR検査。今夏、全世界から6万人を超える選手・関係者が来日する東京五輪が開催される予定だが、中国のように水際対策で彼らに肛門PCRを実施する可能性は?

「低いと思います。肛門PCRは採取時に場所も検査者も必要とするため、短期間に6万人は難しい。それなら唾液PCR検査を複数回実施するのが最善の方法だと思います。検査前の飲食さえ気をつければいいわけですから。

今年2月に行なわれたテニスの全豪オープンでは、ホテル滞在中の選手たちに毎日唾液検査をしていました。肛門PCRを各自で行なってもらう方法もありますが、見えないところで『入れました』と言われれば信じるしかない。そういった可能性も含めて考えれば、唾液PCRが最適だと思います」(久住医師)

唾液PCR検査が優秀すぎる以上、幸か不幸か(?)肛門PCR検査は日本では広まらなさそうだ。