『週刊プレイボーイ』でコラム「古賀政経塾!!」を連載中の経済産業省元幹部官僚・古賀茂明氏が、菅政権の目玉政策となったグリーン政策について、ドイツの事例を参考にすべきと指摘する。

(この記事は、5月17日発売の『週刊プレイボーイ22号』に掲載されたものです)

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2030年の温室効果ガス排出量について、13年比で「46%の削減」を目指すと菅首相がぶち上げたのは4月末のこと。

これまでの政府目標「26%の削減」から大幅な積み増しで、50年までに排出量実質ゼロを達成するという「カーボンニュートラル」とともに、グリーン社会の実現で経済成長を図るとする菅政権の目玉政策となった。

ただし、その中身はスカスカだ。46%という数値の根拠を問われた小泉進次郎環境相が「おぼろげながら浮かんできたんです。46という数字が」と答えたエピソードが象徴するように、達成までの道筋や手立ては曖昧(あいまい)で、専門家からはその本気度を疑問視する声が絶えない。

そもそも、昨年10月の所信表明演説で打ち出された「カーボンニュートラル」そのものが唐突感に満ちたものだった。それまで菅首相が強調していた成長戦略はデジタル庁設置やハンコ廃止や携帯電話の料金値下げなど、デジタルまわりのことばかりで、グリーン関連への言及は皆無だった。

しかし、米中やEUが争うようにグリーン戦略を打ち出し、その将来投資総額は3000兆円を超えるともいわれる。このままでは世界に後れを取ると焦った菅首相が急ごしらえで所信表明に盛り込んだのだ。

それゆえ、菅首相にはグリーン政策の哲学が欠けている。グリーン政策は単に温暖化ガスを減らすことだけが目的ではない。グリーン社会を構築する過程で、現代社会が抱えるさまざまな課題を同時に解決できるという哲学が根底にある。しかし、菅首相にはこの哲学がないため、打ち出すグリーン政策も場当たり的で意味不明なものになるのだ。

そこで、参考にしたいのがドイツの事例だ。もともと同国は国民的な議論を積み重ね、30年に温室効果ガス55%削減、50年にカーボンニュートラル達成という高い目標を打ち出していた。ところが今、それさえ十分でないと仕切り直しへと動いている。

その動きを大きく加速させたのが、今年4月末に示されたドイツ連邦憲法裁判所の判決である。50年のカーボンニュートラル実現のためには、30年に55%削減を目標とするのでは不十分であり、人間生活のあらゆる局面で発生する温室効果ガスの削減について、若い世代に大きな負担を強いることになるとして「未来世代の基本権侵害」と判断したのだ。

これを受けてドイツ政府は目標を取り下げたか? 違う。逆に55%削減の達成を45年に前倒ししたのだ。さらに、30年65%、40年88%削減という、従来よりもさらに高い具体的目標値を盛り込んだ気候変動法が議会に提出される予定だ。

注目すべきはこの野心的な新プランを多くのドイツ国民が前向きに評価し、協力の姿勢を見せていることだ。政治リーダーが気候変動対策について哲学を語り、熟議を通じてその未来図や到達までの道筋をしっかりと国民が理解していないと、こうした動きは起きない。

哲学に裏打ちされ、達成までのシナリオが具体的に示されているドイツと、場当たり的で見栄えのよい数字だけを掲げて自己満足の日本。グリーン戦略でどちらが勝者になるかはもはや言うまでもないだろう。

残された時間は少ない。ドイツに学び、中身のあるグリーン政策を今こそ、国民自らの手で作るべきだ。

●古賀茂明(こが・しげあき) 
1955年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して11年に退官。『日本中枢の狂謀』(講談社)など著書多数。ウェブサイト『DMMオンラインサロン』にて動画「古賀茂明の時事・政策リテラシー向上ゼミ」を配信中。最新刊『日本を壊した霞が関の弱い人たち 新・官僚の責任』(集英社)が発売中

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