今国会でのLGBT理解推進法案の提出を断念した自民党執行部を、SNSで公然と批判した稲田氏。「リベラル化」はかなり本気?

小池百合子東京都知事、野田聖子自民党幹事長代行らと並び、一時は初の女性総理の有力候補と目されていた稲田朋美衆議院議員。

しかし、今年5月末に発売された月刊誌のインタビューで、かつて稲田氏を重用してきた安倍晋三前首相が「ポスト菅」の候補に挙げたのは、茂木(もてぎ)敏充外務大臣、加藤勝信官房長官、下村博文政調会長、岸田文雄前政調会長の4人。そこに稲田氏の名前はなかった。

自民党関係者が言う。

「稲田さんが当選5回で入閣2度(防衛大臣・規制改革担当相)、党3役(政調会長)のキャリアを積んで首相候補にまでなれたのは、安倍さんという後ろ盾があってのこと。その安倍さんの口から名前が出なかった、つまり見限られた理由は、ひと言でいえば『リベラルっぽくなってしまった』からでしょう。

近年、稲田さんはシングルマザー支援や選択的夫婦別姓導入、LGBT理解増進法案など、保守層から見るとリベラルな政策の実現に力を入れてきた。これにより自民党内のタカ派議員から『裏切り者』と罵声を浴び、有力支持団体・神道政治連盟の国会議員懇談会の事務局長ポストからも事実上更迭されたほどです。安倍さんも最近の稲田さんの言動にはカチンときているはずですよ」(自民党関係者)

この"急旋回"の背景を、政治評論家の有馬晴海氏が解説する。

「順調にキャリアを重ねていた稲田さんですが、防衛大臣在任中の2017年、陸上自衛隊のPKO日報隠蔽(いんぺい)問題についてろくに答弁ができず、辞任に追い込まれました。

この一件で"稲田総理待望論"はめっきり聞こえなくなり、何か再浮上のきっかけを......と取り組んだのが女性重視政策だったんです。自民党に欠けている政策を実現するリーダーとして世論、特に女性有権者の支持を集められれば、再び浮上の目も出てきますから」

前出の自民党関係者もこう言う。

「稲田さんは女性重視政策を提言する足場として、19年に自民の女性議員に声をかけ、『女性議員飛躍の会』という議員連盟を結成しています。

ただ、この議連にはもうひとつ役割がある。かつて稲田さんは安倍さんに自民党総裁選への出馬を直訴しながら、立候補に必要な議員20人の推薦を集められず断念しています。

今も稲田さんは『1日でもいいから総理になりたい』と強い意欲を見せていますから、この議連は次に総裁選に挑むときの有力な基礎票という意味合いもあるはずです」

この議連には、現政権や党重役と距離の近い野田幹事長代行、高市早苗前総務大臣、三原じゅん子厚生労働副大臣といった面々は参加していない。いわば"党内野党"的な色合いもある立ち位置だ。

防衛大臣退任後は二階俊博幹事長に接近するなど、一時は"試行錯誤感"がありありだった稲田氏だが、ここにきて腹を決めつつあるようにも見える。稲田氏はある対談でこんな話をしている。

「防衛大臣のときに大きな挫折をし、順調にいかない人や疎外感に悩む人の気持ちがわかるようになって、女性重視政策が自分ごとになった」

最近ではリベラル系メディアや海外メディアでの露出が目立つ稲田氏。保守おじさんのアイドルからの"急旋回"、ひょっとしたら化けるかも?