『週刊プレイボーイ』でコラム「古賀政経塾!!」を連載中の経済産業省元幹部官僚・古賀茂明氏が、混戦模様となった自民党総裁選の根底には、ふたつの構造的問題があると推測する。

(この記事は、9月13日発売の『週刊プレイボーイ39・40合併号』に掲載されたものです)

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菅 義偉首相の不出馬表明で、混戦模様となった自民党総裁選。世間の関心は、派閥がどう動くかと、誰が勝つかに集中するが、その根底には、ふたつの構造的問題がある。

そのひとつは「世代交代」である。この10年、自民党では安倍晋三前首相、麻生太郎副首相、二階俊博幹事長といった派閥ボスたちが政治を牛耳る構図が定着してしまった。今回の自民党総裁選で誰が当選するかによって、その長老支配にピリオドが打たれ、世代交代が一気に進む可能性がある。

もうひとつは「派閥利権政治の打破」である。派閥政治は利権政治でもある。派閥ボスは利権を分配することで自らの権力を維持する。その利権の構造をぶち壊し、改革を進める政治家が総裁選に勝利すれば、日本の政治は大きく変わるはずだ。

このふたつのテーマに最も影響を与える候補者といえば、河野太郎行革担当大臣だろう。

まずは世代交代。報道によれば、河野氏が自身の所属する派閥トップの麻生氏に総裁選出馬の意向を伝えた際、麻生氏は「最後は自分で決めろ」と容認の考えを示したとされる。しかし、本音は大反対のはずだ。

なぜか? 河野氏が勝利して総裁、総理になれば麻生派は世代交代が進み、事実上の"河野派"になってしまう。そうなれば、盟友の安倍氏とタッグを組み、キングメーカーとして政界に君臨してきた麻生氏の地位が危うくなってしまうためだ。

派閥利権政治の打破はどうか? 自民党内では改革志向の河野氏は派閥ボスらの持つ利権の構造を破壊しかねない存在として警戒されている。その象徴が原発利権だ。

閣内入りしたこともあり、最近まで自説を封印していたが、河野大臣が脱原発、再エネ導入に熱心なことは知られている。もし「河野首相」が誕生すれば、新政権はこれまで自民が堅持してきた原発推進から脱原発へと舵(かじ)を切る可能性は小さくない。

小泉進次郎環境相が河野氏を推すのは確実で、その勢いはさらに強まるだろう。原発推進の大ボスである安倍氏は河野氏潰(つぶ)しに動き、表向き高市早苗前総務相を支持する姿勢を見せながら、裏では岸田文雄元外相を自分の傀儡(かいらい)とする目論見(もくろみ)だ。利権の構造に斬り込もうとする河野、それを嫌う派閥ボスとの対立が水面下で進んでいるのだ。

こうした隠れたテーマに日が当たるかどうか、すべては河野氏の覚悟次第だ。総裁選では河野氏は"地滑り的な大勝"が必要となる。総裁選は1位が過半数の票を獲得できない場合、2位との国会議員だけによる決選投票となる決まりだ。

1回目に河野氏が1位でも、決選投票になれば、彼の改革姿勢を嫌う派閥ボスの締めつけで安倍氏や麻生氏の傀儡である岸田氏が逆転勝利する可能性が高い。つまり、河野氏は1回目の投票で大勝しなければならないのだ。

今、巷(ちまた)では自民政治への不満が渦巻いている。河野氏が派閥領袖(りょうしゅう)たちと袂たもとを分かち、改革への捨て身の覚悟を示せば、国民の河野コールが湧き起こる。そうなれば、総裁選直後に予定される衆院選に不安のある若手中心に雪崩現象が起こり、河野氏が過半数を取って総裁に選ばれるだろう。

2001年の自民総裁選で小泉純一郎元首相は「自民党をぶっ壊す!」と叫んで支持を広げ、大勝を収めた。同じ覚悟が河野大臣にも問われている。

●古賀茂明(こが・しげあき) 
1955年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して11年に退官。『日本中枢の狂謀』(講談社)など著書多数。ウェブサイト『DMMオンラインサロン』にて動画「古賀茂明の時事・政策リテラシー向上ゼミ」を配信中。最新刊『日本を壊した霞が関の弱い人たち 新・官僚の責任』(集英社)が発売中

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