『週刊プレイボーイ』で「挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが、他国への介入に対するアメリカの民意の「変質」について語る。

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カブール空港から飛び立とうとする米軍の輸送機にすがるアフガニスタンの人々――。目を覆いたくなるような光景に、あのアメリカはどこに行ってしまったのかと感じた方も多いことでしょう。

第2次世界大戦以後、アメリカは時に多くの血を流してまで各地の戦争や紛争に介入してきました。「なんのための戦いなのか」という問いが国内外で繰り返されても、"汚れた仕事"こそがアメリカの国益、そして国際秩序の安定に寄与すると信じられてきたのです。

そして9・11以降の20年間は、テロとの戦いが民主主義陣営のリーダーたるアメリカの使命とされていました。

現在でも、民主主義や正義を守るという大義名分が完全に失われたわけではありません。しかし、国境を越えた軍事的介入に、米政府も米国民の民意もメリットを見いだしづらくなっているのは間違いない。

トランプ前大統領の「なぜアメリカだけが国際社会のために金も血も投資するんだ」という主張は、ある意味で"アメリカ人の本音"の代弁でもあったわけです。

また、アメリカから見れば「悪さ」をしているはずの中国やロシア、イランなどとの関係において、アメリカが掲げる「正義」がその国の人々に自由や繁栄をもたらしているとは必ずしもいえないという状況もあります。

総じて考えると、今のアメリカは他国への介入の是非論以前に、介入への意欲や余力が不足している。そのため、個々のケースへの対応を功利主義的に判断せざるをえないという事情もあるのです。

この「変質」が今後、完全に元に戻ることはおそらくないでしょう。ある時代まで多くの米国民が「国際社会で清濁併せ呑(の)むアメリカ」を支持してきたのは、誰かの犠牲の上に"自分たちの幸せ"が築けていたことと無縁ではなかったはずです。

その点、Z世代と呼ばれる現代の若い世代は、そもそも上の世代と比べて経済的な恩恵を受けておらず、環境問題にしろ社会の分断にしろ、前世代の負の遺産を背負わされているという被害者意識もある。

それだけに、社会のすべてをリセットすべきだ、「正義」は薄汚れたものであってはならない――といった"思想の純化傾向"があり、例えばエシカル消費意識の強さもその表れではないかと感じられます。

ただ逆に言えば、置かれた環境のシビアさゆえに、彼らの積極的なアクションは(1)まず自分たちの生存、(2)そのための環境・人権問題の解決、という核心的なアジェンダに縛られていく可能性があります。

例えば、上の世代が"必要悪"として見過ごしてきたグローバルサプライチェーンの人権問題にはSNSで敏感に発信するし、環境問題についても自分の国が関わる部分では妥協を許さないけれども、中国やロシアの民主化にはそれほど関心がない......というような"半径"にとどまるかもしれない、ということです。

さらに言えば、民意の熱量が「手の届く範囲」に集中して向けられる傾向は、アメリカのみならず今後、先進国の若い世代の共通した特徴となっていく可能性もあります。

この「変質」の是非は簡単には論じられませんが、1960年代のアメリカで生まれた人間としてはやや複雑な思いを抱いてしまうのもまた事実です。

●モーリー・ロバートソン(Morley ROBERTSON)
国際ジャーナリスト。1963年生まれ、米ニューヨーク出身。レギュラー出演中の『スッキリ』(日テレ系)、『報道ランナー』(関テレ)、『所さん!大変ですよ』(NHK総合)ほかメディア出演多数。NHK大河ドラマ『青天を衝け』にマシュー・ペリー役で出演し大きな話題に!

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