ドイツだけでなくヨーロッパでもリーダーシップを発揮してきたメルケル首相(67歳)はドイツ初の女性首相だった

9月26日に行なわれたドイツ連邦議会選挙(下院)にアンゲラ・メルケル首相は出馬しなかった。次期政権が発足し次第、4期16年間在任した首相の座を退き、政界から引退する予定だ。

米ニューヨーク・タイムズ紙のベルリン支局長を務めるカトリン・ベルノルト氏は、ラジオニュース内でメルケルの"異常さ"をこう指摘した。

〈信じられないのは、16年も女性が政権を握り、国内で最も人気のある政治家のまま退任するということです〉

世論調査では、彼女の支持率は退任を控えた今でも7割近い。英ガーディアン紙は彼女の人気についてこう評している。

〈メルケル首相は今や"ドイツの顔"を超えて"ヨーロッパの顔"になった。マグカップやTシャツ、レモンの搾り器にまで彼女をモチーフにした商品が売られるほど、アイコン的な存在になったのだ〉

また同紙は、彼女が他国の持つドイツのイメージを和らげ、厳格で魅力のない国から好かれる国へと印象を変えた功績を称賛。その要因のひとつとなった中東や北アフリカからの難民の受け入れ政策について、前出のベルノルト氏も高く評価している。

〈ミュンヘンの駅でシリア難民の人たちが電車から降りてきたとき、ドイツ人がホームで列になって拍手して、子供たちにぬいぐるみをあげたりと、温かく出迎えたのです。かつてこの国ではホロコーストが行なわれていました。醜い歴史を持つ国が正しいことをした。それまで誇りを持つことが許されていなかった国に、まさに誇りが生まれた瞬間でした〉

しかし、この難民政策で国外の評価が高まった一方、国内には新たな問題が生まれたのだという。ドイツ在住のライター、フラウ・タカヤナギさんはこう話す。

「実は今、ドイツの都市部では住宅難で部屋が不足しており、南部のミュンヘンは"世界一の住宅バブル"ともいわれています。そんななか、ひとつの住宅に企業勤めの人と難民の両方が入居に応募した場合、大家さんは難民を住まわせることも少なくないんです。なぜなら、難民は仕事がなくてもドイツ国家が生活費の面倒を見てくれるので家賃滞納の心配がない。一方、企業勤めの人はクビになったら家賃が支払えなくなるからです。

そして、その難民の生活を救うために、サラリーマンたちの血税が使われている。彼らは仕方なく街の中心から40kmも離れた郊外に住みながら、難民のために税金を支払う、という構図になってしまっています」

今回の選挙の結果、メルケル首相の政党である中道右派政党のキリスト教民主同盟(CDU)は数十年ぶりに歴史的な大敗を喫した。これを期に、リーダー交代とともに難民流入を止めてほしいという声も少なくない。

"ドイツのお母さん"メルケル首相がつくり上げた"好かれる国"は、今後どうなるのだろうか?