週刊プレイボーイ』でコラム「古賀政経塾!!」を連載中の経済産業省元幹部官僚・古賀茂明氏が、有権者の多くが「改革」という響きに警戒心を抱くようになった理由と、必要なのは「改革」のバージョンアップだと指摘する。

(この記事は、10月25日発売の『週刊プレイボーイ45号』に掲載されたものです)

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今回の衆院選において、各党の公約で目につくフレーズがある。それは金額を明示した「給付」だ。例えば公明党は「18歳以下の子供に一律10万円給付」、立憲民主党は「低所得者へ年額12万円給付」、共産党は「収入減家計へ1人10万円を基本とする給付」、国民民主党も「国民1人当たり一律10万円給付」など、各党とも「分配」を掲げて一見「ばらまき」と見える政策を打ち出している。

その一方で「改革」という文字は消えるか、あっても公約集の隅っこに追いやられてしまった。「改革」というフレーズを前面に打ち出しているのは、今のところ日本維新の会しかない。

2000年代初頭の「小泉改革」をはじめ、この20年間で叫ばれてきた「改革」というキーワードが影を潜めてしまった理由は想像に難くない。有権者の多くが「改革」という響きに警戒心を抱くようになったからだ。

例えば、労働者派遣法の改正だ。当初、派遣法改正で雇用の流動化が進み、自由な働き方も期待できるといわれたものだった。しかし、実際に96年、04年に派遣業種の拡大が行なわれると、賃金の安い非正規雇用者が爆発的に増え、社会に格差が広がった。請負労働の拡大も同様だ。

アベノミクスの経済改革も人々の暮らしにダメージとなった。その典型が円安だ。1の矢(金融緩和)と2の矢(財政出動)で景気を下支えしている間に3の矢(成長戦略)を放ち、日本経済を成長させるのがアベノミクスの基本シナリオだった。

しかし財界を中心とする既得権益層の抵抗で3の矢は放たれず、安倍政権は円安を維持することで輸出企業の利益を増やす道しか取れなかった。

資源・食料輸入国の日本にとって、円安は生活物資の高騰をもたらす。また、円安に依存して労働生産性を上昇させる努力を怠れば、企業の弱体化、労働者の低賃金化も進む。「改革」が格差を広げ、経済弱者を苦しめているのだ。

そのことに多くの有権者が気づき、「改革」を忌み嫌うようなムードが広まった結果、どの政党も「改革」というフレーズを口にしなくなってしまったというわけだ。

だが、格差是正にも成長にも「改革」は必要である。とはいえ、これまでの「改革」を惰性で続けてもダメだ。今、必要なのは「改革」のバージョンアップ。すなわち「改革の改革」だ。

これまでの「改革」は企業の効率を重視する規制緩和が中心だった。しかし、これからは企業優先、効率一辺倒の「改革」から、①働く人に優しい改革、②自然環境に優しい改革、③社会的不公正に厳正対処できる改革へとフェイズを移さなければならない。効率から公正へと言ってもよい。

具体的には、①では最低賃金アップや同一労働同一賃金の徹底、②ではグリーン経済推進のための環境規制強化、③では企業や政治家の不正への厳正処罰などの改革メニューが候補となる。

改革=規制緩和というイメージがあったが、今後は弱い立場にある人々を保護するための新たな規制強化も必要になる。

分配と給付の大合唱となった感のある今回の総選挙。そのなかで維新がアピールしている改革姿勢は、実は企業効率重視の古いバージョンにすぎないと私は見ている。投票にあたっては、候補者の改革の姿勢をぜひ確認してほしい。

●古賀茂明(こが・しげあき) 
1955年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して11年に退官。『日本中枢の狂謀』(講談社)など著書多数。ウェブサイト『DMMオンラインサロン』にて動画「古賀茂明の時事・政策リテラシー向上ゼミ」を配信中。最新刊『日本を壊した霞が関の弱い人たち 新・官僚の責任』(集英社)が発売中。

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