E-3はボーイング社製の早期警戒管制機(AWACS機)。米空軍は2機を沖縄・嘉手納に配備(写真/USAF)

「台湾の独立勢力が"一線"を越えるなら、断固たる措置を講じざるをえない」

11月16日にオンラインで行なわれた米中首脳会談で、中国・習近平(しゅう・きんぺい)国家主席はバイデン米大統領にこう伝えた。中台統一のためには武力行使も辞さないという立場をあらためて示した形だ。

そんな中国が最近、ゴビ砂漠の兵器試験場で、ある"標的"を弾道ミサイルで破壊する実験を行なっているという。米軍事専門サイト『THE DRIVE』などによれば、ふたつ設置されたこの標的は米空軍の早期警戒管制機(AWACS機)、「E-3セントリー」の実物大模型だ。

E-3セントリーは沖縄の米空軍嘉手納(かでな)基地に配備されており、台湾有事の際には戦闘機とともに真っ先に現場に急行する。航空評論家の嶋田久典氏が解説する。

「嘉手納の第916空中指揮管制飛行隊にはE-3が2機配備されています。同機は米軍全体でも現在31機しかない"虎の子"で、空母と同様、戦略的に重要な"高価値ユニット"(HVU)と呼ばれる兵器。中国が狙うのは理解できます。

AWACS機の役割は敵機の情報把握と戦闘管制です。戦闘機もレーダーを持っていますが、捜索する距離も範囲も限られますし、常時レーダーを使っていては自機の位置が敵にバレてしまう。

一方、最前線ではなく後方に位置するAWACS機が、その広い視野を生かして早い段階で敵機の数や位置をつかめれば、数的不利でも攻撃する優先順位や接敵する方角などを工夫して対処できる。その意味で、AWACS機は"戦力倍増機"とも呼ばれます」

逆に言えば、米軍の戦闘機群の戦力はAWACS機さえいなければ激減する。ならば、空戦が始まってから米戦闘機群の後方にいるAWACS機を狙うより、まだ基地にいる段階で潰(つぶ)してしまえ――これが中国の戦略のようだ。

ちなみに、中国が砂漠地帯に重要標的の実物大模型を設置するのは初めてではない。以前にはタクラマカン砂漠に米軍の空母や駆逐艦を模した標的をつくり、対艦弾道ミサイルの実験を行なった。最近ではこれらの標的をレールで移動させ、海上を動く艦艇を狙い撃つためのテストも行なっているのだという。

一方、今回のゴビ砂漠では、台湾の重要施設や航空拠点なども高い精度で再現され、弾道ミサイルのテストに使われている。そこに米軍のAWACS機の摸型が登場したことで、アメリカで注目を集めるに至ったわけだ。

しかし、弾道ミサイルの実験をやるのに、わざわざ実物大の精巧な模型までつくる必要があるのか?

「弾道ミサイルの終末誘導段階では、標的の形状を判断できるレーダーや赤外線画像センサー(探知範囲は数十㎞四方といわれる)でとらえた情報から、フィン(小翼)を動かして精密に着弾地点を調整します。

AWACS機を狙う弾道ミサイルは核弾頭ではなく通常弾頭で、標的の直上で散弾をバラまいて広い範囲を破壊するとはいえ、かなり精密な誘導が必要。今回の模型設置は、その実験のためでしょう。

なお実戦では、センサーが滑走路や駐機場にE-3が『いない』と判断した場合、格納ハンガーに直行・直撃するようにプログラムされていると思われます」(嶋田氏)

やはり、台湾有事では日本まで戦域に入ることは避けられないようだ――。