『週刊プレイボーイ』で「挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが移民受け入れについて語る。

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岸田政権が表明した外国人労働者受け入れ拡大の方針に対し、あちこちで批判の声が上がっています。欧州の失敗を繰り返す、労働者の低賃金化がさらに進む、日本人の失業が増える、治安が悪化する......。

ロジカルな批判も一部にはありますが、多くの反対意見の根底には「自分たちの社会を価値観の違う存在に開放したくない」というシンプルな"ガイジン嫌悪"があるように思います。

ただ一方で、世界の潮流、そして少子高齢化が猛スピードで進む日本の現状を直視すれば、将来にわたり移民を受け入れないという選択肢は現実的とはいえません。

昨日と同じ明日、1年後、5年後、10年後......を望む人々にとって、移民受け入れ拡大は確かに"パンドラの箱"でしょうが、開けたら何が起きるかわからないその箱は、状況を踏まえればどう考えても開けざるをえない。

それなら「いい開け方」をみんなで考えよう、というのが本来あるべき議論ではないでしょうか。

日本の社会はある面でとても我慢強い(コロナ対策ではそれが吉と出ました)けれど、「パンドラの箱を開ける決断」や、「開けた後に関する冷徹な議論」はものすごく苦手です。

移民の件にしても、実際にはすでに外国人労働者への部分依存があるのに――言い換えれば、すでにパンドラの箱がメルトダウンして中身がむき出しになり始めているのに、「箱は開いていない」と言い張っている。

おそらく将来的には、状況の変化に押されてルールをしぶしぶ"微調整"し、核心的な議論を回避しつつ、なんとなく受け入れていくんだろうと想像できます。

しかし、どうせ受け入れるならそこに「議論」や「意思決定」がなんらかの形で反映されたほうがいいのでは......と思ってしまうのは僕だけでしょうか。

やや乱暴な比較になってしまいますが、そんな日本と正反対で、パンドラの箱があったら良くも悪くもとにかく開けてみたがるのがアメリカ社会の特徴です。着地点は見えないしどうなるかわからないけど、とりあえずジャンプしてみよう、と。

そんなアメリカ社会で今、一定の人々がこじ開けようとしているパンドラの箱が「人種の垣根の消滅」です。建国にかかわる先住民の虐殺と奴隷労働という負の歴史に社会をむしばまれ続け、現在でも差別は残るものの、時間をかけて積み上げた「多様な社会であろう」とする姿勢は、今や一部の白人層を除けば明確なコンセンサスになっています。

例えばネットフリックスやディズニーのコンテンツは近年、ハリウッドに先んじて白人優位を完全に脱却し、東アジア系、アフリカ系、インド系、ヒスパニック......そして、人種がミックスして"◯◯系"とはくくれない役者が多くの作品で中心を張っています。

これらを見て育つ世代が多数派となる数十年後には、人種の垣根が物理的にほぼ消滅している可能性も高いでしょう。

どんな人種であろうと輝ける社会――もしかしたらそれは、極めて苛烈(かれつ)な究極のメリトクラシー(能力主義)社会かもしれません。

が、人種の概念を溶解させるというゴールをひとたび目指し始めれば、反発も分断も包摂しつつ強引に進んでいくのがアメリカ式。この問題に関しては、僕はアメリカ社会の未来を楽しみにしています。

●モーリー・ロバートソン(Morley ROBERTSON)
国際ジャーナリスト。1963年生まれ、米ニューヨーク出身。レギュラー出演中の『スッキリ』(日テレ系)、『報道ランナー』(関テレ)、『所さん!大変ですよ』(NHK総合)ほかメディア出演多数。NHK大河ドラマ『青天を衝け』に続き、TBS系日曜劇場『日本沈没―希望のひと―』への出演が話題に!

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