『週刊プレイボーイ』でコラム「古賀政経塾!!」を連載中の経済産業省元幹部官僚・古賀茂明氏が、参議院選挙に向けて岸田首相の「聞く力」への評価と野党の動向について解説する。

(この記事は、1月4日発売の『週刊プレイボーイ3・4合併号』に掲載されたものです)

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今年の政治は岸田文雄首相の売り文句である「聞く力」、そして野党の新しい動きがカギになるのではないか。

岸田首相の政権運営は良く言えば臨機応変、悪く言えば風見鶏(かざみどり)政治だ。18歳以下への10万円給付も当初は半額をクーポンで支給すると言っていたのに、世論の風向きが反対に傾くと、あっさり全額一括給付を認めた。

これだけ政策がブレブレになると、政権の求心力は弱まるものだ。しかし、岸田首相の場合は支持率低下などのダメージにつながっていない。

国民は安倍、菅時代の強権政治にイヤ気が差していた。そのため、岸田首相の姿勢を彼自身がアピールしている「聞く力」の具体化として好ましく見ているのだろう。その点では、岸田首相はラッキーだともいえる。

とはいえ、ブレが続くようだと「聞く力」への好感は「信念がないダメリーダー」という評価に転じうる。特にオミクロン株の拡散が憂慮される局面で、水際対策やブースター接種の対応などでフラフラしてしまえば、「聞く力」への好評価はあっという間に反転してしまうだろう。

夏には参議院選挙もある。岸田首相が「聞く力」への評価を維持し、この選挙で勝利できるかどうかが、22年の政界の先行きを占う焦点となるだろう。

もうひとつの注目点、野党の動向についてだが、今年は勢力図に大きな変化があるかもしれない。日本維新の会は昨年10月の衆院選で大勝し、支持率が急上昇している。この維新と政策が近い国民民主党、そして小池百合子東京都知事が夏の参院選前にも旗揚げするとささやかれる新党が連携すれば、中道右派の大きなかたまりになる可能性がある。

立憲民主党、共産党、社民党、れいわ新選組などリベラル左派の枠組みを"第1の野党共闘"とすれば、このかたまりは中道右派を中心とした"第2の野党共闘"と呼べる。

これが勢力を持ち始めると、野党第1党の立民は苦しい。旧民主色の強かった前執行部と距離を置く泉健太新代表なら、これまでの立民の負のイメージから脱却できるという期待感もあるが、政策の内容が従来のままなら支持は高まらないだろう。

かといって中道右派側に支持を広げようとしても、その位置には維新と国民民主がいる。

となると、立民が国会での存在感を維持するためには、かなり思い切った方針を打ち出すことが求められる。そのひとつとして野党共闘にあれこれと注文をつける最大支持組織・連合と大げんかするくらいのことが必要だ。

立民が今や財界の労務管理部と化した感のある連合に「正社員の権利ばかりを守ろうとする連合がいるから、非正規労働者の賃金が上がらない」と毒づくくらいの大立ち回りを演じて初めて、有権者は「立民が何やら、面白そうな動きをしている」と期待を寄せるようになる。

そうして立民が野党リーダーの座を維持できれば、自公政権対野党という構図は続く。一方で、中道右派色の強い第2の野党共闘が主流になれば対決姿勢は弱まり、与野党の部分的な連合で大きな政策転換につながるかもしれない。実際、自公と維新、国民民主は、憲法改正論議の加速ですでに一致している。

あくまでも参院選の結果次第だが、野党の主流をどちらのグループが占めるかによって、永田町の風景はがらりと変わったものになるだろう。

●古賀茂明(こが・しげあき) 
1955年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して11年に退官。『日本中枢の狂謀』(講談社)など著書多数。ウェブサイト『DMMオンラインサロン』にて動画「古賀茂明の時事・政策リテラシー向上ゼミ」を配信中。最新刊『日本を壊した霞が関の弱い人たち 新・官僚の責任』(集英社)が発売中

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