ウクライナ戦争では、このような有翼プロペラ推進無人ドローンが偵察や攻撃で活躍している

週刊プレイボーイでは数回にわたり、ロシア軍相手に絶大な効果を上げているウクライナ軍のドローン戦術について記事にしてきた(『「ドローン戦術」強さの理由』(17号)、『ウクライナ軍「反転攻勢」の新・ドローン戦術!!』(24号)など)。

ウクライナにおける無人ドローンの有効性に目を付けた各国軍隊や武装組織、テロリストたちが、この"格安"空軍兵器に注目しているという。

このままいくと、ドローン兵器は世界中に拡散し「ドローン・パンデミック」を引き起す可能性がある。

元航空自衛隊空将補の杉山政樹氏はこう指摘する。

「ドローン戦術には凄まじい破壊力はありませんが、資金の乏しい小国や武装組織などは、安価で手軽な攻撃専用のドローンならば持ちたがるでしょうね」(杉山元空将補)

イスラエルIAI社製の『グリーンドラゴン』。発射後90分滞空し、目標を発見次第、重さ3キロの爆薬と共に自爆攻撃する。全長1,7mで持ち運び可能

では、具体的にどこの国が採用へと動きそうか? ドローン兵器の最新事情に詳しいフォトジャーナリストの柿谷哲也氏が解説する。

「戦闘爆撃機を持たない小国は欲しがるでしょう。ドローンがあれば、いままでできなかった航空攻撃ができるからです。

NATO加盟国とアフリカでは、戦闘機と戦闘ヘリを持たない国は総計23か国。中東とアジアならば9か国、中南米では9か国。総計53の国々は、ドローン兵器に興味があると言えるのではないでしょうか。

価格の高い米国製ドローンは敬遠されますが、実戦経験済みのウクライナ製改造ドローンは、一番売れ筋になるでしょう」(柿谷氏)

ウクライナでロシア軍戦車を破壊している有翼式大型ドローン『TB2』は、すでに世界で使用が始まっている。報道によると、5月25日にイランの首都テヘラン近郊にある国防軍需省研究所へ自爆ドローンによる攻撃があり、イスラエルによるものと推定されている。

イスラエルIAI社製『Rotem L』。プロペラ式小型ドローンで、機体重量4.5キロ、爆弾重量1キロ、航続距離10キロ、滞空時間30-40分。非装甲の一般車両発見追尾し、自爆。または、建物の小さい窓から飛び込んで自爆する

国際政治アナリストの菅原出氏はこう言う

「その自爆ドローンはおそらく、イラン国内から飛ばしています。無人ドローンはミサイルのように大きくないので輸送も楽なんでしょう」

ドローンを持ち込めばいいだけであれば、莫大な費用がかかる長距離弾道ミサイルを保有する必要もなくなる。

ドローンには『小型回転式プロペラ型』というカテゴリーがある。ウクライナ最前線では、このカテゴリーのもので改造された民生品『マジックボンバーUJ32』安価ドローンが、ロシア軍装甲車両に迫撃砲弾を投下、破壊している。

さらに小型なのは手榴弾投擲ドローン『RGD5』だ。手榴弾を搭載し敵の真上から爆撃可能だ。これならば1発約2キロの迫撃砲弾、または1発0.3キロの手榴弾を投下できる。爆撃の規模は小さいが、効果はある。

アフガニスタンで実戦を経験している元米陸軍大尉の飯柴智亮氏はこう言う。

「この『UJ32』と『RGD5』は、イラク戦争でのIED(手製簡易仕掛け爆弾)と同じレベルの兵器で、局地的な脅威にとどまります。イラク戦争であれだけ脅威だったIEDも、対策を講じた米軍相手には効果が上がりませんでした。これと同様に、このレベルのドローンは将来的にはすたれる兵器だと思います」

しかし、今すぐに安く使えるならば、世界中の小国や武装勢力、テロリストたちはやはり欲しがるだろう。

リビア空軍では、先進国空軍ならば練習機のカテゴリーのL-39練習機に爆弾を搭載し、地上攻撃に使用している

正規軍でも、戦火で戦力を消耗したリビア、NATO加盟国ではリトアニア、スロベニアなど、アジアではラオスやカンボジアなどの空軍は、先進国であれば「練習機」として使用される機体に爆弾を搭載し、攻撃機として使用している。

そういった国々にとっては、安価な機体で、さらにパイロット訓練費用も不要、被撃墜されたときの人的損害も無いドローンは、非常に魅力的なはずだ。

前出の菅原出氏はこう言う。

「これらのドローン兵器は、対ロシア戦で上がった成果を元にこれから売り出されると思います。今、ウクライナには世界各地からロシア憎しの兵士たちが集っています。そこで、仲間となった者同士の間で技術ネットワークが作られます。今の戦争が下火となれば、当然彼等は次の戦場に行くわけです。そうして次の戦いでその兵器の効果は拡散され、次々と広まっていくでしょう」

セルビア空軍機。ユーゴスラビア製G-4練習機の翼下にパイロンを増設して爆弾などを搭載可能にし、地上攻撃機として使用

今後拡散される可能性の高い地域はどこなのだろうか?

「アフリカの国軍はロシアが支援しています。エチオピア国軍は既にトルコ、イラン、中国製のドローンを導入し、ティグレの武装勢力を撃退しました。今度は武装勢力側がウクライナ由来のドローンを取り入れて反撃するかもしれません。

中東では、ウクライナで戦ったシリア人傭兵経由で、イラン系武装組織、イスラエルに抵抗するハマスやヒズボラにドローン兵器が渡るでしょう」(菅原氏)

携帯式対戦車ロケット砲『RPG-7』の弾頭をドローン化した『UJ-32 Lastivka』というものがある。低ノイズの電動モータープロペラと操縦装置カメラを付けたドローン弾頭で、高度2mを時速120㎞で、最大40㎞飛ぶ。これが、中国のスウォーム技術(同時に複数機のドローンを群れのように飛ばす技術)と合体すれば、恐ろしいことになる。

「そんな技術が完成すれば、今ハマスの大量ロケット弾攻撃をほぼ完全に防いでいるイスラエルの迎撃システム『アイアンドーム』を無力化できてしまいます。ドローンが超低空で大量に来られたら迎撃不可能。イスラエルはドローン技術に対し、とても警戒しています」(菅原氏)

ドローン・パンデミックは、すでに始まっている。

スロベニア空軍はPC-9練習機を攻撃機として使用。翼下にバイロンを増設し、ロケット弾発射装置を搭載