『週刊プレイボーイ』で「挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが、銃規制がアメリカで進まない理由について語る。

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アメリカで6月25日、21歳未満の銃の購入者に対する審査の厳格化などを定めた法律が成立し、28年ぶりに連邦レベルで銃規制の強化が法制化されました。しかしながら、バイデン大統領が求めていた殺傷力の高い銃の販売規制などは盛り込まれていません。

これほど銃による凄惨(せいさん)な事件が相次ぎ、超党派で規制強化への動きを見せても、結局は"骨抜き"になってしまうのはなぜでしょうか。

銃規制反対派の中には「規制に頼らず節度を持って銃を持とう」という穏健派もいるにはいます。しかし政治的に声が大きい人々は、そんなに生ぬるいスタンスではない。

少しでも規制を許せば連邦政府は介入を強め、自分たちのあらゆる権利や自由が奪われる――そんなトンデモな強迫観念がそれなりに広がりを見せてしまう背景には、米社会特有の"陰謀論耐性"の低さもあります。

私が学生時代をボストンで過ごした1980年代は、貧困エリアと麻薬カルテルの膨張が社会問題化し、多くの白人たちは「目の前の恐怖から身を守る」という意識で銃を所持。まだ規制の問題と"壮大な物語"はそれほど結びついていませんでした(銃規制はソ連を利するとの論調はごく一部にありましたが)。

しかし90年代に入り、終末思想により武装化したカルト団体「ブランチ・ダビディアン」がFBI(連邦捜査局)を相手に数ヵ月立てこもる事件(1993年)が起きると、これが「信仰や自衛の権利に対する連邦政府の弾圧」であるとの主張が一部でじわじわ広がっていきます(実は、人気ドラマ『X-ファイル』にもこのフレーバーがまぶされています)。

その後、99年のコロンバイン高校乱射事件で一時的に銃規制強化の機運が生まれたものの、2001年の9・11同時多発テロで雲散霧消。さらに、中東から帰国した一部の元兵士たちがPTSDの影響もあって「真の敵は連邦政府だ」と信じて武装したり、リーマン・ショックで経済的に没落した人々の間でさまざまな陰謀論が広まったり......。多くの人々が"巨大な敵"を意識し、ネットで連携する流れが加速していったのです。

もうひとつつけ加えるなら、アメリカの一部白人層(特に南部のプロテスタント)の内面には奴隷制廃止以来、「連邦政府に権益を奪われる」というパラノイアが存在し続けてきました。

ある意味その"ポップな表出"として、ネットが生まれる前から陰謀論はあった。言論の自由の徹底、同調圧力のなさといった社会の空気とも相まって、右も左もカルトも、めいめいに自分の主張を吹聴するのです。

感覚的な論考になってしまいますが、イギリスのロンドン・パンクが(セックス・ピストルズにしてもザ・クラッシュにしても)非常に階層闘争的なのに対し、アメリカのパンクは政治性が薄く、ヒッピー系の陰謀論や都市伝説のフレーバーが強いのも、非常に示唆的です。

こうした社会の特性もあり、銃規制反対派の強力なロビー団体であるNRA(全米ライフル協会)は陰謀論好きな人々にウインクをするような活動を展開。トランプ前大統領やFOXニュースなどもそれをたきつけています。

銃規制も人工妊娠中絶の問題も、合理的に考えれば答えは明らかだと思うのですが、それが争点化され社会が分断されてしまうのには、このような経緯もあるのです。

●モーリー・ロバートソン(Morley ROBERTSON)
国際ジャーナリスト、ミュージシャン。1963年生まれ、米ニューヨーク出身。レギュラー出演中の『スッキリ』(日テレ系)、『報道ランナー』(カンテレ)ほかメディア出演多数。昨年はNHK大河ドラマ『青天を衝け』、TBS系日曜劇場『日本沈没―希望のひと―』への出演でも話題に!

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