ウクライナに供与される最有力といわれる、フランスの戦闘機ミラージュ2000。ギリシャやエジプトなどさまざまな国で運用されているウクライナに供与される最有力といわれる、フランスの戦闘機ミラージュ2000。ギリシャやエジプトなどさまざまな国で運用されている

米中央情報局(CIA)のバーンズ長官は2月2日、ウクライナでのロシア軍の攻撃が最近、激化しているのを踏まえ、「今後6ヵ月が最終結果を左右する"間違いなく決定的な"ものになる」との見方を示した。春先に予測されるロシア軍の大攻勢に向けて、現在ウクライナ軍は戦略の立て直しを迫られている。

ドイツのレオパルト2を主体とする西側の戦車の供与が決まったが、ゼレンスキー大統領が求める「最大200機」の戦闘機供与は、バイデン米大統領の判断で見送られた。米国のF-16戦闘機はNATOに数多く配備されているが、ドイツのレオパルト2供与が製造元のドイツの許可が必要だったのと同じように、F-16も米国製造のため米国の許可なしでは配備国も供与不可となる。同じく英、独、伊、スペインが運用する最新鋭の戦闘機ユーロファイター「タイフーン」も共同開発なので仮にドイツが反対すると供与不可能だ。

しかし、ウクライナのレズニコフ国防相は1月31日、パリで仏ルコルニュ国防相との会談後に「どんな支援でも最初は"ノー"の段階を通過するものだ。当初は否定された独製戦車レオパルト2も今では供与を決めた保有国による『戦車連合』ができた。将来の『戦闘機連合』を信じている」と自信を示している。

この会談直後、仏伊共同開発の中距離対空ミサイル「マンバ」のウクライナへの供与が決まった。そして、フランスとウクライナ両国でかなり突っ込んだ話し合いがなされているとみられるのが、フランスの戦闘機供与である。仏マクロン大統領も「ウクライナへの戦闘機提供の可能性は排除していない」と発言。戦車供与でドイツに話題をさらわれたフランスとしてはNATO内での巻き返しを図っていることだろう。

では、フランスから供与される可能性が高い戦闘機は何か? それは仏ダッソー社開発のミラージュ2000だ。米国のF-16と同じように"名機"と評価の高いこの戦闘機はフランスで600機以上が生産され、本国以外ではギリシャ、エジプト、UAE、カタール、インド、台湾、ブラジル、ペルーにも輸出されている。

ウクライナへの供与に関しては、フランスの自国開発、自国生産なので他国の承認は必要ない。昨年初頭時点でフランス空軍はこのミラージュ戦闘機を106機保有していたが、現在、同じくダッソー社が開発した最新鋭のラファール戦闘機への置き換えが進められている(2030年までに完了)。そのため、余剰が出ているのだ。

仮にミラージュ2000のウクライナへの供給が決まったとしても、パイロットの養成は一朝一夕にはいかない仮にミラージュ2000のウクライナへの供給が決まったとしても、パイロットの養成は一朝一夕にはいかない

戦闘機に詳しい航空アナリストの嶋田久典氏がこう指摘する。

「ミラージュ2000には、迎撃で制空戦闘を主とするC型(昨年6月に最後の14機が退役し同型32機すべてが退役)、対地攻撃を主とするD型(73機保有のうち18機が退役)、マルチロール型の5型(26機)、核攻撃型のN型(2018年に29機退役)などがあります。このうちフランスが供与するのはおそらく、迎撃任務を主としたC型もしくは5型ではないでしょうか。

マクロン大統領の口ぶりからすると敵地に奥深く入っての対地攻撃は認めがたいので、おそらくキーウ近郊の航空基地に配備し、NATOから提供されるAWACS(空中早期警戒監視システム)情報を受けながらの任務となるでしょう。フランス本国で退役した機体の保管状態の詳細は明らかにされていませんが、ウクライナへのミラージュ2000の戦闘機供与はとても現実味があります」

最近のニュースでは、未確認だが各地のウクライナ空軍の滑走路がラフな状態でも運用できる東側戦闘機用から、より繊細さが要求される西側戦闘機の運用を睨んで整備され始めたという情報もある。西側戦闘機が到着する前に受け入れ準備が進んでいると思われる。前述した新たに供与される対空ミサイルなども、拠点防衛として滑走路および駐機している機体を守るためにもより充実させなければならないだろう。

ただし、機体が供与されてもパイロットの養成は急務となる。ウクライナ空軍のミグなどの戦闘機パイロットでも西側の戦闘機に機種転換するのに数ヵ月かかるのは間違いない。養成のためにフランス本国に派遣されても時間はかかってしまう。ウクライナがそれまでに耐えられるかどうかも含めて時間との戦いになるかもしれない。

ミラージュ2000のパイロット養成という難題に嶋田氏が妙案を授けてくれた。

「航空機の場合、"傭兵パイロット"はありがちな選択肢です。たとえば1998〜2000年に起きたエチオピア・エリトリア紛争では、エチオピアを支援したロシアとエリトリアを支援したウクライナとの間で、現地で航空戦が展開されました。このときはSu(スホーイ)-27とミグ29が使われ、お互いの空軍を退役した傭兵パイロットたちが戦っています。

ミラージュ2000はさまざまな国で運用されてきた経緯があるので人材にも事欠きません。現に運用国のひとつ、UAE空軍のパイロットの大半はパキスタン人で運営されているという情報もあります。その気になれば発展途上国も含めて世界中から傭兵もしくは義勇兵が集められるでしょう」

冒頭のバーンズ長官の発言ではないが、実質的にこれからの半年が勝負の分かれ目となるだろう。そうであるならばウクライナが熱望する戦闘機の供与は、次のステップとして早めに投入されなければならない。戦局を打開しロシアが「停戦」を持ちかけてくるような状態にするためにも、フランスの戦闘機供与、特にミラージュ2000から目が離せない。