中国・サウジアラビア・イランの3か国による非公開協議が行われた 中国・サウジアラビア・イランの3か国による非公開協議が行われた
ウクライナ戦争勃発から世界の構図は激変し、真新しい『シン世界地図』が日々、作り変えられている。新連載「#佐藤優のシン世界地図探索」ではその世界地図を、作家で元外務省主任分析官、同志社大学客員教授の佐藤優氏が、オシント(OSINT Open Source INTelligence:オープンソースインテリジェンス、公開されている情報)を駆使して探索していく!

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佐藤 ここには秘密情報は一つもありません。オシントのやり方で「シン世界地図」を読み解いていきます。週プレNEWSでこの連載を読めば、オシント力が獲得できるはずです。

ではまずはじめに、イランの話から始めましょう。

私にとって2023年、最大の事件なのですが、話はイランが2月の終わりにウランの濃縮率83.6%を達成した事から始まります。読者の皆さんにお伝えしたいのは、このウランの濃縮率が90%になると、原爆や核兵器が作れるということです。

イランの関係者は「偶然、間違えてできてしまった」と言っていますが、こんなことに間違いがあるか? って話です。

米国は「けしからん」と言うだけで、対応を国際原子力機関(IAEA)に丸投げし、グロッシIAEA事務局長がイランを訪問してヒアリングしましたが、「撤去した核施設の監視装置を再び機能させることを前向きに検討している」とイランの言う事を額面通りに伝えているだけで、イラン外交の画期的な勝利と言えるでしょう。

それと時を同じくして、断交していたイランとサウジアラビアの関係を、中国が間をとりもって修復しました。

サウジが2016年に暴動を扇動したとして、イスラムのシーア派の指導者を殺害し、それに反発したイランが国交を断絶、その関係の修復は難航していました。それが突如、北京の地で、中国のお陰で両国が仲直りしたのです。
イラン政府は『中国に感謝します』と声明を出しました。中国が中東でこんな役割を果たしたのは史上初です。

――おっしゃる通り、3月10日のロイターの報道によれば、中国・北京で行われた4日間の非公開協議の結果、長年断交していたサウジアラビアとイランの国交が中国の仲介で復活しました。

中国から外交担当トップの王毅氏、サウジのアイバン国家安全保障顧問、イランからはシャムハニ最高安全保障委員会事務局長が参加しましたが、米国は事後に報告を受けただけです。中東湾岸諸国の関係が激変するのに、そんなに騒ぎになってないのが不思議ですよね。

佐藤 ここのところで我々にはズレがあります。私と世界的な人口統計学者のエマニュエル・トッド氏、政治学者の片山杜秀さんで『トッド人類史入門 西洋の没落』(文春新書) を共著しましたが、その中でトッドが「今回、起きていることは何かというと、"アメリカ帝国が収縮している過程"なんだ」と言っています。

すなわち、米国の保護領である日本とドイツに対しての締め付けの規則が、保護領のエリート層には見えていないとトッドは指摘しているのです。

私は"広域ヤクザ団体"のシマ=縄張りが縮小している時に、直系の第一次下部組織の上納金だけがえらく値上がり、本部の当番がよく回って来る様になった状態なのだと思います。

なので、日本にいると一見、日米同盟が強化されているように見え、ドイツは戦後の平和主義を捨てて米国に接近しているように見えますが、これは逆に米国が弱くなり、身内固めをして、そのツケが日本やドイツに回ってきていると見た方がいいと思うのです。

――中東は今後、イランとサウジをまとめた中国の天下になるのですか?

佐藤 中国の天下になるとまでは言えませんが、中東における中国の存在感が飛躍的に高まっています。3月15日からオマーン湾で、中国、ロシア、イラン海軍が合同演習を開始しました。米海軍を前に挑発をしていますが、米軍は何の手出しもできません。

――ペルシャ湾内のバーレーン王国にある米海軍第五艦隊の基地は門番の役割を果たすはずなのに、雪隠詰めになってしまいました。

佐藤 いつでもホルムズ海峡を封鎖できますよ、という感じですね。しかも参加するのは、スパシーバのロシアとニーハオの中国、インシャラ―のイランですからね。

――さらにその背後には、アメリカの"元・味方"のサウジも控えています。

佐藤 これだけの出来事が起きているなかで重要なことは、日本ではこれらの事象が全く別々に報道されている、ということです。

イランのウラン圧縮発覚、中国が仲立ちしたイランとサウジアラビアの国交回復、中露イラン海軍の合同演習を結び付けて、欧州No.1のトッドさんの知性が引いた"米帝国収縮"の補助線を合わせるとこう見えてくるのです。

現状、この4つの要素がなければこの見方は出来ません。その意味で、これはいろいろな要素を組み合わせてできたスマホと同じで、イノベーションに似ているといえます。

――国際関係の「技術革新」ですね。

佐藤 はい。そして次回のテーマにも繋がっていくのですが、これが米国保護領の日本にも波及していくのです。

次回へ続く。 次回の配信予定は3/31(金)予定です。

撮影/飯田安国 撮影/飯田安国

●佐藤優(さとう・まさる)
作家、元外務省主任分析官
1960年、東京都生まれ。同志社大学大学院神学研究科修了。『国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて』(新潮社)で第59回毎日出版文化賞特別賞受賞。『自壊する帝国』(新潮社)で新潮ドキュメント賞、大宅壮一ノンフィクション賞受賞。