1990年代初頭のバブル崩壊以来、経済停滞が続く日本。やれ少子高齢化だ、やれ失われた30年だ、と悲観的な話ばかりが飛び交うが、実際のところ他国と比べてどうなのか? G7が注目されたこの機会に、あらためて比較してみた。

その結果わかったことは、まず「アメリカ強え!」。そして日本はやっぱり、残念ながら......。まずは現実を直視しよう!

■日本の経済停滞とデフレはG7でも異例

5月19日から21日まで広島で開催されたG7サミット。1970年代に7ヵ国体制が発足してから、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ(当初は西ドイツ)、日本、イタリア、カナダはそれぞれ国際社会で存在感を放っているが、内情を見ればいろいろな差がある。

では、その中で日本はどんな位置づけなのか? 「衰退国」「安い国ニッポン」といったネガティブなワードも飛び交う昨今だが、ほかと比べても本当に下り坂なのか?

そこでG7が注目されたこの機会に、各国の主要なデータや指標――つまり偏見なしの「ファクト(事実)」をあらためて確認してみよう。そんなの知ってるよ、という人もいるかもしれないが、並べて数字を見ると実感できることも少なくないはずだ。

なお、過去と比較したり長期間の推移を確認したりする場合は、日本でバブルが崩壊した後からのカウントとなるよう、基本的に30年のスパンでデータを拾っている。

まずは図表①、国の基盤となる人口について。日本は30年前も今も、G7ではアメリカに次いで人口の多い国だが、すでに人口減少期に入ったこともあり、数字はほぼ横ばい。欧州諸国も小幅増にとどまっているのと比べ、この30年で1億人近くも人口が増えたアメリカの圧倒的存在感!

各国の人口

次に図表②経済規模=GDP(国内総生産)の過去・現在比較。こちらも日本はなんとかG7の中で2位をキープし続けているが、すでにドイツに肉薄されている上、過去30年の伸び率もぶっちぎりの最下位。

やはり「失われた30年」はダテではない。なおグラフにはないが、この30年で中国のGDPは40倍以上に膨れ上がり、今やアメリカに次ぐ世界第2位の経済規模となった。しかしアメリカも強いなあ......。

各国の経済規模

図表③は、ここ30年の毎年の経済成長率の平均値だ。これは物価変動の影響を除いた「実質GDP」の数値を基に算出しているため、日本はイタリアをわずかに上回るが、日伊両国はG7の中では落ちこぼれだ。

たかが1%の差と侮ってはいけない。1%成長が10年続いても1.1倍、20年でも1.22倍にしか増えないが、2%成長だと10年で1.22倍、20年続けば1.5倍になる。国の経済規模においてこの差はめちゃくちゃデカい。

過去30年の年間経済成長率の平均値過去30年の年間経済成長率の平均値

そして図表④は、ここ30年の消費者物価指数の上昇幅。アベノミクスもむなしく、日本だけ物価が全然上がっていない。これを見ると、円安だなんだという以前に、日本人にとって海外旅行が年々ゼータクなものになっていることがよくわかる。

逆に、今や外国人観光客にとって日本は天国。アジアでも「日本製品は安いからね」などと言われるようになる日も遠くないかも。

■問題は全体の金額よりも現役世代への負担集中

ここからは税や社会保険料といった「徴収」と、社会保障、少子化対策といった政府から国民へのサービスに関わる分野のデータ比較だ。

図表⑤高齢化率。日本はG7のみならず、全世界でもトップ(正確には上にモナコ公国がいるが、特殊すぎる国なので除外)の高齢化大国だ。

高齢化率

合計特殊出生率図表⑥)もかなり低く改善のめどが立たないため、この先も高齢化率が上昇していくことは確実だ(医療が発達して長生きできるようになったこと自体は素晴らしいけれど)。

世界銀行

この人口構造によって、日本の高齢者向け社会保障費は膨らみ、その負担が現役世代に重くのしかかっている。

財政・世代間格差問題に詳しい関東学院大学経済学部の島澤諭(しまさわ・まなぶ)教授が解説する。

「2020年度の社会保険料は、労使折半の企業側の負担も含めて総額73.5兆円でしたが、その約9割を64歳以下の現役世代が負担しています(*この年の日本の生産年齢人口は全体の59.1%)。また、今は社会保障の財源に年間59兆円ほど税金と国債を突っ込んでいますが、そのうち50兆円ほどが現役世代の負担とされています。

このように負担のバランスが悪すぎる上、経済も停滞して若い世代の所得が伸びないのが今の日本です。戦後の制度発足当初は、ボリュームの大きい若い世代から保険料を取って少ない高齢者に回す仕組みだったわけですが、人口動態の変化で"若者奴隷国家"のような構造になってしまいました」

ちなみに、GDPに占める社会保険料や税などの割合を示す国民負担率図表⑦)は、意外にも日本はさほど高いほうではない。あくまでも問題は、高齢世代への社会保障を削減できない、そして経済成長もできない、というダブルパンチで若い世代に負担や将来不安が極端に偏っていることなのだ。

国民負担率

一部には、日本ももっと全世代から税金をたくさん取り、その代わり子育てなども含めた給付(サービス)を手厚くして、高福祉高負担の"北欧型社会"を目指すべきだとの議論もあるが、島澤氏は「残念ながらもう手遅れだ」と指摘する。

「G7構成国ではありませんが、例えばスウェーデンでは社会保障の問題に早くから本気で取り組んだ。1990年代に与野党、労働界、産業界が参加する『国民会議』をつくって、まさに全員で改革を進めたからこそ、今の姿があるわけです(*スウェーデンの90年時点での高齢化率は17.8%だった)。

しかし日本の場合、90年代はまだバブル経済の名残もあったために改革が遅れ、年金支給年齢の引き上げなどわずかな施策のみで"ねずみ講的な社会保障体制"が維持されてしまいました。

そして最近でも、負担が偏っているなら若い世代にも給付をばらまけ!というような政策が多く、ある意味で全世代が既得権者となって現状維持を黙認し、『この先は全員で貧しくなりましょう』というような状況になっています」

赤信号、みんなで渡れば怖くない......という言葉が思い浮かぶが、無事に渡れば終わりの道路横断とは違って、社会保障問題の先送りはそのまま将来世代への負担になる。では、どんな制度なら持続可能なのか?

「これから出生率を劇的に上げるのは難しいですし、移民を大量に入れたとしても、欧州の例を見るとその子供の世代になれば出生率は低下しますから、長期的な人口減少トレンドは変わらないでしょう。やはり、少子化・人口減を前提とした制度に設計し直すしかないと思います。

まず給付の部分では、今の基礎年金部分だけを税金でまかなって『高齢者向けベーシックインカム』のようにし、2階部分は必要な人のみ民間の年金に加入する形にする。

また、医療費負担も全世代で原則3割(現行制度では75歳以上が1割、70~74歳が2割、69歳以下が3割)とし、財源のスリム化を図る。このくらいの改革ができれば、税や社会保険の負担は減り、若い世代の手取り所得が増えて経済も活性化するのでは」

ただし、こうした高齢者の負担増につながる話は、どの政党も選挙ではなかなか掲げられない。「国民会議」、やっぱり日本でも必要なんじゃないでしょうか?