週プレが2011年から継続的に報じてきた、かつての消費者金融国内最大手「武富士」(現・TFK)の創業一族に対する元利用者400人による集団訴訟。その判決が3月14日、東京地裁で下された。
そもそもこの訴訟は、武富士から受け取れるはずだった利用者の過払い金が、10年の同社倒産のため、大幅減額されてしまったことに端を発している。
武富士創業者の故・武井保雄氏と次男で元副社長の武井健晃(たけてる)氏には、数々の違法経営によって会社を倒産させた責任があり、しかも一族は倒産に至るまでの間、会社利益を不正に個人資産へと転換させていた。ならば、過払い金返還額の不足分は、創業家がため込んだ莫大な私財から支払うべきだというのが、原告側の主張だ。
ところが、松井英隆裁判長による判決は、要約すれば次のようなものだった。
●当時、膨大な数の過払い金発生顧客を抱えていた武富士が、全顧客についてそれぞれ個別に正確な過払い金の算出を行なうことは困難であった。従って武富士が過払い金の計算義務を負っていたとはいえず、過払い金の発生を各顧客に対し自主的に告知しなかったからといって、故・保雄氏や健晃氏が悪意、あるいは重大な過失によって経営者としての義務に違反したとは認められない。
●武富士経営陣と暴力団との密接な関わり、故・保雄氏による社員盗聴事件発覚とそれによる同氏の逮捕、自社の経営状態悪化のなかでの高率な株主配当、投機性の高い金融商品を購入した結果生じた300億円の損失などが、武富士の経営破綻に影響を及ぼしたという正確な証拠はない。従って武井一族に、同社を倒産させ、過払い金の返還を不可能にした経営者責任を問うことはできない。
つまり、原告側の請求の全面棄却である。
だが、この判決は矛盾や問題点だらけなのだ。原告側弁護団の及川智志(さとし)氏が指摘する。
「そもそも過払い金は違法な利益ですから、それを取っていたのなら返さなければならない。にもかかわらず、過払い金の発生が莫大な数で、それぞれの額を正確に算出するのが困難だったから計算しなくていい、各顧客に告知しなくてもいいというのは、まったく論理が逆転しています。裁判所が、『実行が難しければ、法律を守らなくてもいい』と言ってしまっては、おしまいじゃないですか」
東京地裁の下した判決の裏には?
さらに武井一族が武富士を倒産させた経営者責任についても、精査された形跡がない。
「同社の倒産は、当時の国際金融状況の悪化や過払い金の増加といった、外的要因のみによるものだったのか? それならプロミスやアコムなども同条件だったのに、今も存続しています。武富士の社会的信用を失わせ、金融機関からの資金調達をできなくした原因である同社の違法性や特殊性が、判決ではまったく考慮されていないのです」(及川氏)
では、東京地裁の下した判決の裏には、何が考えられるのか?
「社会的影響を恐れたのでしょう。特に、すべての過払い金の算出と顧客への告知義務を認めてしまったら、ほかの消費者金融各社にも自主的に過払い金を返還する必要が生じ、経営を大きく圧迫します。そうなると武富士のように、倒産してしまうところが出てくるかもしれませんからね」(及川氏)
裁判官は法律と自らの良心のみに従うべきであって、金融業界への影響に縛られる必要などない。しかし、その当たり前の一歩が踏み出せず、最初から原告の請求棄却ありきという責任逃れを決め込んでしまったのだろうか……。
「いずれにせよ今回の判決が理屈の通らない、浅はかな内容であることだけは確かです」(及川氏)
しかし、武富士創業家への追及が、これで終わったわけではない。今回の判決は集団訴訟の第1陣と第7陣に対するものであり、まだ第2陣から第6陣までの判決が控えている。全国で総勢約2800人もの元利用者が、武井家に対する損害賠償を求めているのだ。
そして、第1陣と第7陣ももちろん、引き続き東京高裁に舞台を移して、控訴審を争う。今後もこれまで以上に過払い金返還義務について理論構成していくとともに、被害の実態についても、さらに裁判官に訴えていく構えだ。
「本当はすでに完済していた武富士からの借金のため、自殺に追い込まれたり、生活が壊れてしまった方が大勢います。過払い金というのは単なるお金の問題ではなく、人の命や尊厳がかかった問題でもあるということを裁判官に真摯に受け止めてもらうことが、正しい判決のための後押しになるはずですから」(及川氏)
今回は被告側を利する判決が出たものの、武井一族が安穏としていられるわけではないようだ。