1997年に神戸連続児童殺傷事件(酒鬼薔薇聖斗事件)を起こした「元少年A」による手記『絶歌』(太田出版)が6月11日に発売。

飛ぶように売れている一方で、事件の被害者家族は手記の回収を求め、また、ある書店では販売を自粛するなど波紋を広げている

タレントでエッセイストの小島慶子が、世間の気になる話題に独自の視点で斬り込む!

***

何か事件を起こした当事者が手記を書くと「知的だ」「文学的だ」と言う人がいます。でも、もしその文章を誰が書いたのかを知らずに読んだら、受ける印象は違うのかもしれません。

メディアで繰り返し取り上げられ、様々な臆測が飛び交い、興味をかき立てられる大きな事件は“特別な誰か”の仕業(しわざ)であってほしいという欲求があるのでしょう。極めて異常で独自の世界観を持つ、謎だらけの人物がやったことであってほしいと。

お話の続きが読みたい…と期待して受け取る情報は、すでに胸の内に用意されている筋書きに沿って読み替えられてしまうものです。感想を述べる時にも、何が綴(つづ)られているかを論じているつもりで、自分がどのようなストーリーを見たがっているのかという妄想の告白をしているだけ、ということも。

筋を追う自分が果たして他者の欲望を知ろうとしているのか、自分の欲望をなぞっているのか、はっきりと判別はできないものです。

いわゆる話題作は、何が書かれているかよりも、それがどのように読まれたかということのほうに、ある事象や時代を知るためのヒントが隠れているのではないかと思います。