京都市山科区の物件。3万6千円で貸している。オーナーには1年間無償家賃の後、現在では3万5千円支払っている

少子高齢化により全国に増加する空き家ーー。

今年5月には「空き家対策特別措置法」も完全施行され、この夏の帰省で「将来、実家はどうしよう…」などと心配になった人も少なくないはず。

空き家問題がにわかに注目を浴びる中、無職・資金ゼロから空き家再生で月100万円も稼ぐ強者がいる。『常識破りの「空き家不動産」投資術』著者の村上祐章(ゆうしょう)氏に聞いた。

―そもそも、仕事もお金もなかった村上さんが、空き家再生に目覚めたきっかけは?

村上 8年前、僕は確かにプータローで毎日遊んで暮らしていました。ある時、後輩にチラシのポスティングを頼まれて京都市内の宅地を徒歩で周ったところ、空き家がすごく多いことに気づいて。興味を持って窓から中を覗いたりしているうちに「これちょっと掃除したら貸せるな」とか「ゴミを捨てて色でも塗れば何かのお店に使えるな」とか、まるで自分が大家みたいに想像が膨らんでいったんです。

―でも、それって実際は赤の他人の家なんですよね?

村上 そうですね(笑)。大家がいるし面倒くさいなとは思ったんですが、なぜかいきなり“どう貸そうか”という発想で。今思えばちょっと飛んでましたが、それなら許可を得ればいいのかなと。そこで大家を探し出して許可をもらい、空き家をキレイにして人に貸し出すことを始めました。

“購入しないで家賃収入”とか言いだしたのはここ2、3年の話で、許可を得て空き家を使わせてもらってる…くらいの感覚でしたね。

―それが今や月収100万とはスゴイですが、具体的にどんな仕組みなんでしょう?

村上 基本のモデルは、空き家を10万円でリフォームして家賃4万円で貸し、オーナーに2万円払う。自分は投資10万で毎月2万円の収入になります。それを70軒やって現在は月収100万に。

ポイントは、オーナーからは1円もいただかないこと。通常、不動産屋はオーナーに営業をかけ、お金をとろうとしますよね。でも僕は手数料をとらないし、工事代もこちら持ち。放置していた空き家がいつの間にかキレイになって人が住み、少ないけれど家賃も入る。そもそも空き家を放置している人は不動産に興味がなく、面倒なことは嫌い。家賃が入るのは入居者がついてからですが、もし滞納があってもクレームがついてもオーナーが損することはありません。

―確かに、大家にとっても放置しておくよりはいいですよね。このビジネスは誰でもできるんですか?

村上 知識、技術、資格は一切いりません。大切なのは、地域の人とたくさんおしゃべりして、信頼を得ること。見ず知らずのエリアだといろんな人とつながりを持つのが難しいので、実家や自宅の周りなどがオススメです。「同じ町内の村上です」と声をかけ始めれば、オーナーもすぐ見つかります。

僕の場合は高齢のオーナーさんが多く、ただ話を聞いていた感じです。「最近、腰が痛くて…」とか「昔はこの辺は田んぼだらけで…」なんて世間話。何回か足を運ぶうちに自然に知り合いになれば話は早いです。

地方なら、空き家をタダでもらえるかも

―うーん、それはそれで結構面倒くさいかも…。

村上 これを労働と考えると最初は割に合わないでしょう。多くの方が僕の方法を聞いて「効率が悪い」と登記簿を調べ始め、住所がわかると手紙を書いたりする。でも、それだと普通の不動産営業と同じ。そういうのに反応しない人が空き家を放置してるわけですから。散歩やカフェ巡りが趣味の人は向いているかも。僕は労働感覚ゼロでしたね。

―オーナーと打ち解けたとして、家賃2万円で満足してくれますか?

村上 最初から2万円で貸してというよりは、「いくらでお借りできますか」と聞きます。だいぶ古いですし雨漏りもしますから…と言ったりすると、ほとんどの場合、それより下回る金額を提示してくれます。もし高ければ、雨漏りは全部僕が直しますから…などと交渉します(笑)。

―なるほど、そのあたりはさすが達人です(笑)。貸す家賃も相場よりかなり安いんですよね?

村上 そうですね。ほとんど直さないので。実際、掃除とゴミの片付けだけで見違えるようにキレイになるものです。また、壁の汚れはすだれやよしず、床はゴザで隠したり、危険な部分だけ修理したりして、リフォーム費用は10万円以内に抑えます。

もちろん、隠しているのは見え見えですが、そのかわり「リフォームフリー」をアピール。アート系やDIY好きな人は一定数いて、直してないことが逆にメリットになる。中途半端なクロスが貼られているより、下地だけのほうがいい。クロス、ペンキ、板、土壁…自分好みにリフォームできるのが売りになります。

―京都は古いものの価値も高く人気が出そうですが、東京あるいは地方ではどうでしょう。

村上 僕は京都と大阪が中心ですが、確かに京都は人気エリアで満室、大阪は供給過剰で2、3割は空室です。でも、7、8割埋まっていると考えれば悪くはない。東京は借りるのは高いですが、その分高く貸せるし入居者も入りやすいでしょう。

地方だと入居者は確かに少ないですね。でもその分、空き家を安く借りたりタダでもらえる可能性も。例えば、入居者がついたら毎月3千円とか固定資産税だけ払うような借り方や、場合によってはこちらが無料で引き取りますよと。借りるのが安く済むので、5件借りたとして1、2軒入居者があるとプラスにできます。

今、「空き家対策特別措置法」が必要以上に深刻に語られているため、危機感を持っているオーナーは多い。だから、倉庫で眠っているバイクや自転車をもらってあげる感覚で、30年放置して風化させるより、安く借りてあげたほうがいいと思います。

奈良の山奥でタダでもらった物件。少しでも村おこしに役立てれば…と気長に入居者を探す

住んでくれる人に家を10年後プレゼント

京都市北区の物件。家賃4万9千円で貸し、オーナーからは1年間無償で借りた後、現在は4万1千円支払っている。

―伺っていると、イイこと尽くしのようですが、苦労や危険なことはないんですか?

村上 ご近所の目を気にするオーナーさんだと、いろいろと制限や口出しされることはあります。また、2年たって更新してくださらないオーナーさんも。そういうのがちょっと面倒になり、最近は所有も始めていて、20~30万円の激安物件を10軒ほど買いました。それから初期の頃には、契約書を適当なもので使っていて、「この条文はおかしいだろう」と突っ込まれたこともありました。今は、不動産投資のコンサルもお受けできるほど、契約や法律関係も詳しくなりました。

―サラリーマンの副業としてもできそうですか?

村上 技術的には誰でも可能ですが、最初は時間がかかります。イメージとしては、土日を毎週費やしたとして、最初の1ヵ月でやっと交渉が終わり、次の1ヵ月でリフォーム、さらに1ヵ月で入居者探し…とトントン拍子にいって3ヵ月。それで得られるのが月1、2万ですから、1軒だけでやめてしまう人も多い。でも、だんだん効率化され、コツコツ何年か続けるうちに40、50万になる。だからビジネスというより、空き家を探すのが趣味、家が再生していくのが嬉しい、という人に向いていますね。

―村上さんご自身の今後の目標は?

村上 購入せずに家賃をゲットできたので、次の段階として、家を購入しないで所有する方法を考えています。物件をタダで…というとビックリされますが、あと15年位で普通になるはず。なぜなら、30年前は冷蔵庫やテレビがタダとかあり得なかったけど、今はお金を払って引き取ってもらう時代。家も必ずそうなります。

さらに将来的には僕も持っていても仕方がないものなので、住んでくれる人に10年後プレゼントしますと。家賃だけゲットし、タダでもらったものをタダであげるという新たな次元を目指しています。

●村上祐章(むらかみ・ゆうしょう)1977年京都府生まれ。大学卒業後は定職につかず、20代の頃は起業や株式投資などで大成功と大失敗を繰り返す。30歳、「空き家を何とか有効活用できないか?」との思いで、廃墟不動産投資を考案。2013年より「廃墟不動産投資家」と名乗り、ブログを開始。http://haikyo-fudousan-toushika.vet/

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(取材・文/田山奈津子)