マッチョレスラーに盛り上がり、肉弾スポーツのラグビーを見て興奮する。芸能人は肉体を鍛え上げることで注目を浴び、筋肉自慢の男性たちがカフェやバスツアーを企画するーー。

今や空前のブームとなった「マッチョ」が、実は景気回復のカギを握っていると囁(ささや)かれている。

マッチョブームは目新しい現象ではない。これまでにプロレスや格闘技、ラグビー、ボディビルといったマッチョスポーツによるブームは3回ほど起きており、そのいずれも好景気の呼び水となってきた。

その歴史を振り返ると、1回目は力道山がプロレス興行をしていた1953年頃(!)。2回目はラグビーブームが起きたり、アーノルド・シュワルツェネッガーやシルベスター・スタローンがハリウッドで活躍した1980年代後半。3回目が総合格闘技ブームの起こった2000年頃だ。これらのマッチョブームが起きた後には「高度経済成長」「バブル景気」「いざなみ景気」と必ず好景気が訪れているのだ。

では、現在はどうか? 数年ぶりのブームとなったラグビーやプロレスの試合には女子が駆けつけ、鍛えぬかれた肉体に「カッコいい~」と興奮する姿が多数確認されている。さらに、こうした状況を反映するように若い女性向けの「マッチョバスツアー」が活況を呈しているという。

このバスツアーはツアーガイドであるマッチョたちの案内のもと、各地の観光を楽しむもので、移動の際にはマッチョに「お姫様抱っこ」してもらえたり、マッチョを好きなだけ撮影できる「ポージング撮影タイム」、マッチョに抱きしめてもらえる「抱擁タイム」までそろえている。

まさにマッチョづくしのツアーで、通常シートは税込み1万9800円、指名マッチョVIPシートは2万7980円と安くはない値段設定ながら人気を博している。企画した「HI(ハイ)」の鈴木秀尚社長が語る。

「マッチョバスツアーは、今年1月に始めて今回で9回目。予想以上の反響があったので今後も続けたいと思っています。今年は他にも『マッチョカフェ』(※1)を企画したら7時間待ちの状態となったり、『マッチョ氷』(※2)も一日240杯売り上げる大盛況でした。ライザップやラグビーなどの人気も追い風になっていると思います」

(※1)店員が全員マッチョなカフェ。注ぎ終わったビールの空き缶を腕の筋肉でペチャンコに潰すなどのマッチョサービスがある(※2)筋肉を見せながらレトロ風のかき氷製造機でかき氷を作る店

女性たちはマッチョの何に惹かれるのか?

マッチョメンバーのサイヤマングレート氏も話す。

「僕は一日1本、マッチョ的な動画をユーチューブにUPしていますが、再生回数は一日3万から3万5千回。今、マッチョ需要は増加傾向にあると実感しています」

女性たちはマッチョの何に惹かれるのか? バスツアーの参加者に感想を聞いてみた。

「お姫さま抱っこなんて、結婚式以外に機会がないじゃないですか。でもマッチョの人たちは、すぐに抱きかかえてくれるので最高です」(27歳・OL)

「お姫さま抱っこしてもらった時に重いと悪いので、ダイエットのためにジムに行ったり、メイク道具を買ったり、かなり散財しました(笑)」(24歳・フリーター)

「マッチョはフレンドリーだし、優しいから癒やされるんです」(31歳・IT)

「マッチョはたくましくて、頼りになるから好きです」(23歳・看護師)

「この間までアイドルの追っかけをやってたんですが、マッチョに変えました。マッチョは写真を撮っても無料だし、体を触ってもいい。アイドルさんは体に触れませんから」(25歳・OL)

「エネルギーがもらえて、明日からまた仕事を頑張ろうっていう気持ちになりました」(28歳・サービス業)

女性たちにとって、マッチョは「会いにいけるアイドル」のような存在なのかもしれない。マッチョから元気をもらい、明日への活力を得る。そんな前向きな消費の象徴だからこそ、マッチョブームは好景気の前触れとなってきたのではないか。

残念ながら、この因果関係は経済学的にはまだ解明されていない(解明しようとする学者が存在するのかは不明)。しかし、今のマッチョブームが日本人のリビドー(根源的な性的欲望)が再び活性化してきた証であるのは間違いない。

近年の不況下では草食男子が注目を集めてきたが、時代は次のステージへ移ろうとしているようだ。

週刊プレイボーイ48号では、マッチョブームと景気の関係を歴史的に図表入りで詳説、その法則を検証しているのでそちらもお読みください。

(取材/村上隆保 久野勇)