今後、五輪関連工事が重なり、都内で不足することが懸念されているミキサー車。建設現場に生コンを運べなくなり、工期が大幅に遅れる可能性も…

2020年7月に開幕する東京五輪。都内各所で公共工事や駅前の再開発が始動する中、大手ゼネコンは空前の“好決算ラッシュ”に沸いていた。

大成建設、大林組、清水建設、鹿島のスーパーゼネコン4社が今年2月に公表した昨年4~12月の連結決算は全社が純利益で過去最高を更新。さらに、来年度の業績でも過去最高益を更新するとの見通しを各社が発表している。

建設業界にとって“五輪特需”の恩恵は想像以上にバカでかい。建設業界紙の記者がこう話す。

「まず、五輪のメイン会場となる新国立競技場は大成建設が受注し、早くて今夏には着工する予定。大林組などが受注した水泳会場、竹中工務店などが受注したバレーボール会場など、その他の五輪関連施設の建設プロジェクトも間もなく動き出します。

さらに、都心の各エリアで大規模な再開発工事も今年から本格始動。2027年の開業に向け、リニア中央新幹線(品川~名古屋間)の着工はすでに始まっており、発着駅のJR品川駅に乗り入れる地下鉄の新線建設も計画。それだけでなく、品川―田町駅間に建設予定のJR山手線の新駅、その周辺に建つ商業ビル群、東京駅近くに建設予定の日本一高い390メートルの超高層ビル、虎ノ門エリアの地下鉄新駅など今後、都心部で大規模な再開発プロジェクトが続々と始まります」

東京都の舛添要一知事は「今こそ世代を超えて東京を大きく飛躍させる基礎を固める時。これができるのは東京五輪の開催を控えた今をおいて他にない」と鼻高々だ。

だが、セメント・コンクリートの専門紙『コンクリート新聞』の山本雄貴氏はこう釘を刺す。

「今後、多くの建設現場で生コンが足りなくなる可能性があります」

生コンとは、セメントと砂利や石を砕いた砕石に水などを練り混ぜて造られる、主に建築物の基礎工事には欠かせないコンクリートのこと。その生コンが不足する事態は、原料調達から建設現場でのコンクリート打設に至る各段階で発生する恐れがあるのだという。

その背景を遡(さかのぼ)ると深刻な建設不況があった。

「リーマンショックと、公共工事費を大幅に削減した民主党政権(09年9月~12年12月)を経て、生コンの出荷量が大きく落ち込みました。その後、生コンメーカーは工場を続々と閉鎖し、過剰になった設備も手放しました。現場では生コンを扱う多くの熟練職人が離職して…」(山本氏)

現場監督を悩ます生コンの“90分ルール”

生コンを扱う現場が手薄になっているにもかかわらず、五輪関連工事やそれに付随する大規模な再開発工事が続々と着工を迎える…。その時、現場では何が起きるのか? まず懸念されているのが原料不足問題だ。前出の建設業界紙記者がこう指摘する。。

「生コンの主原料は砕石。首都圏で流通する生コンの場合、その多くは栃木県にある山を掘削して調達しています。しかし、掘削した跡地は復元作業として原則的に緑化しなければならないと法律で定められ、その復元方法も『山の斜面の傾斜は○度未満に』などと年々、法律や条例の縛りが強くなっています。

掘削コストが余計にかかるばかりか、それ以前に行政から掘削許可が下りにくくなっているのが実情で、中小・零細規模の会社が多い砕石業者はこれまで生コンメーカーから安く買い叩かれきた事情もあって疲弊している。そこに掘削規制という重荷がのしかかり、廃業・撤退する業者が増えているのです」

五輪に向けて生コンの出荷量が増えれば原料の調達は急務となる。しかし、砕石業者が不足しているために砕石の供給が追いつかず、生コンが造れない…。今後、そんな状況に陥る恐れがあるというわけだ。

さらに、原料供給が間に合っても、今度は工場の生産能力が殺到する受注に追いつかなくなる恐れもあるという。山本氏がこう話す。

「現在、全国に3500近くの生コン工場がありますが、ピーク時の1992年から3割以上も減っています。東京でも07年に現在の東京スカイツリーの場所にあった生コン工場、10年には新宿駅近くにあった生コン工場が駅前の再開発によって閉鎖されました」

そこで問題となるのが、生コンの“90分ルール”である。

「生コンは品質を保つために製造後、90分以内に現場で使わなければならないと日本工業規格(JIS)で定められています。つまり、いくら生コンを製造しても、持っていける場所は限られている。都内では東京湾臨海部や郊外に生コン工場がありますが、都心の再開発が本格化して生産能力が追いつかなくなっても、他県のメーカーに余った生コンを融通してもらうということができない構造になっているのです」(山本氏)

製造が間に合わなくなると、現場では“生コン待ち”の状況が生まれ、工期が遅れたり、建築物の規模縮小を余儀なくされる恐れがある。

ミキサー車は納車まで2年待ち!?

追い打ちをかけるように、その生コンを現場に運ぶミキサー車が足りなくなる点も懸念されている。

自動車検査登録情報協会のまとめによると、長らく続いた建設不況もあり、ミキサー車の登録台数はピーク時の91年(8万5266台)から、昨年3月末時点で4万8396台まで激減。そこに五輪関連工事に伴う受注が殺到すると? 前出の業界紙記者がこう話す。

「当然、ミキサー車が足りなくなります。2013年、東北地方の復興工事で生コン需要が急増した際には被災地にミキサー車が回され、首都圏ではやはり生コンを運ぶ車が足りない状況に陥りました。通常、ミキサー車は購入から約半年で納車されますが、当時はその3倍に当たる18ヵ月待ちの状況となり、首都圏では工事が中断する現場が続出。自治体が発注する公共工事も入札不調が続発する事態となりました」

それには、ミキサー車業界特有の事情も…。山本氏はこう続ける。

「現在、国内でミキサー車を製造できるメーカーが1社しかありません。海外から調達しようにも、日本では橋や道路への負荷を軽減するために道路交通法で厳しい重量規制が掛けられ、それをクリアする外国産ミキサー車はほとんどなく、納車を待つしかないんです。その状況は今も変わっていません」

原料となる砕石が足りなくなり、工場では生産が追いつかず、ミキサー車まで不足して生コンを運ぶこともできない…。だが、それ以上に深刻なのが、建設現場で生コンを適切に扱える職人が少なくなっている点だ。ある生コン業者がこう漏らす。

「コンクリートを流し込む枠を造る型枠大工や、生コンをかき混ぜ、適切に型枠に流し込む土工など、現場ではあらゆる“生コン職人”が現状でさえ不足気味です。そこで心配になるのが、人出不足から現場経験の浅い職人を使わざるをえない状況になっていること。

現場では『型枠から生コンが漏れ出る』『コンクリートの強度が弱くてすぐにひび割れを起こす』など、能力不足から来る欠陥工事が以前より目立つようになっている印象です」

五輪特需に沸く大手ゼネコンと、五輪に乗じた再開発プロジェクトに邁進する国や自治体。だが、その足元では工期の遅れはもちろん、欠陥工事による大惨事まで?懸念せざるを得ない綻(ほころ)びがすでに露呈し始めているのだ。

(取材・文/興山英雄)