ニパウイルスは1990年代にマレーシアで発見。効果的な治療法はまだない

5月中旬以来、インド南部ケーララ州で「ニパウイルス」の感染が流行。少なくとも14人の死者が出ている。どんなウイルスなのか?

「感染すれば、致死率は約70%に上ります」

こう話すのは、国立感染症研究所・獣医科学部主任研究官の加来(かく)義浩氏だ。

「ニパウイルスはオオコウモリが自然宿主だと考えられています。1990年代後半にはマレーシアで、コウモリから感染したブタが生きたまま流通したことで全国に拡大。養豚関係者100名以上が死亡したほか、その流行を止めるために、同国で飼育されていたブタの45%に当たる100万頭以上が殺処分され、養豚業が壊滅的なダメージを受けた事例があります」

致死率が高く、ワクチンや治療法が確立されていないニパウイルスは、エボラ出血熱やジカ熱と同様、世界中に蔓延(まんえん)する恐れのある危険なウイルスとされているという。

「ヒトに感染した場合、インフルエンザのような発熱、痙攣(けいれん)、脳炎などを引き起こし、呼吸困難に陥ることもあります。ですが、症状だけを見て感染したかどうかを診断することはできません。きちんとした検査が必要です」

エボラ出血熱やSARS(サーズ)が世界を震撼(しんかん)させたことは記憶に新しいが、ニパウイルスが日本に来る可能性は?

「日本で流行する可能性は今のところないと言っていいと思います。もちろん日本人旅行者が外国で感染し、帰国する可能性はありますが、ニパウイルスのヒト-ヒト感染は患者と密に接触した医療関係者と家族に限定されています。感染者に対し病院で適切な防護措置が講じられれば、広がる可能性は低く、過剰に心配する必要はありません。

しかし、感染防止の対策は必要です。コウモリの持つウイルスがすべて危険だというわけではありませんが、動物やその体液との無用な接触は避けなければなりません。例えば感染者が毎年見つかるバングラデシュでは、コウモリの体液が混入したナツメヤシの樹液を飲んで感染するケースが見受けられます」

これまでニパウイルスとその近縁ウイルスが感染したコウモリが発見されたのは、バングラデシュ、インド、中国、タイ、オーストラリア、アフリカなど。旅行の際は手を出さないのはもちろんのこと、感染が疑われる場合はすぐ検査を受ける必要がありそうだ。

(取材・文/田中将介 写真/時事通信社)