岡本さんと直接の面識はなかったという松本英光容疑者。「Hagex=岡本さん」であることも自力で調べたのか...。 ※写真はイメージです

「ネット上のいさかいが原因で、まったく面識のない人を殺してしまうなんて、これまで聞いたことがない。国内では初めてのケースだと思います」

ITジャーナリストの三上洋氏もこう驚く殺人事件が起きたのは、6月24日。インターネットセキュリティ関連会社に勤め、当日は福岡市内でセミナーを開催していた岡本顕一郎さん(41歳)が、松本英光容疑者(42歳・無職)にナイフで刺殺されたのだ。

岡本さんは、サイバー攻撃などの技術を詳しく解説する雑誌『ハッカージャパン』(2013年より休刊)の元編集者で、ダークウェブ(闇市場)のリポートや解析を行なう企業「スプラウト」で働いていたセキュリティ業界の有名人だった。それと同時に、岡本さんは「Hagex(ハゲックス)」のハンドルネームで、ネット上のトラブルや問題行動を集めてブログで紹介する"ネットウオッチャー"としても活動していた。

「ネットウオッチャーのブログとしては日本一と言ってもいいほどで、Hagexさんのブログを見に行けば、ネット上のトラブルがほぼわかるというほどです。ちなみに、岡本さんとHagexさんが同一人物だと知る人は、ごく一部でした」(三上氏)

一方、ブログなどに誹謗中傷のコメントを書き込む、いわゆる「荒らし」行為を繰り返していたのが松本容疑者だ。

「荒らしの際に相手を『低能』と口汚く罵倒するため、ネット上で"低能先生"というあだ名がついていたほど。多くのユーザーが『低能先生には困っている』とボヤいていました」(三上氏)

殺人の動機は、5月2日に岡本さんがHagex名義のブログで「低能先生の荒らし行為に困ったので、運営側に通報したらアカウントを削除してくれた」という記事を書いたことだとみられている。影響力のある岡本さんが書いたことで、ほかのユーザーも"低能先生"だと思われるコメントをどんどん報告し、アカウントが次々と凍結された。

松本容疑者はこのことを恨み、面識もない岡本さんが福岡に来るタイミングを見計らって、トイレで待ち伏せしナイフで刺殺するという凶行に及んだようだ。警察の取り調べに対し、「(それまでは)岡本さんの本名は知らなかった。顔はネット上の画像で確認した」と供述しているという。

自首直前に松本容疑者がブログに投稿したとおぼしき一文には、こんな犯行声明めいた書き込みがある。

「俺を『低能先生です』の一言でゲラゲラ笑いながら、通報&封殺してきたお前らへの返答だ。(中略)これから近所の交番に自首して俺自身の責任をとってくるわ」

ただ、5月2日の岡本さんのブログを見ても、それほど挑発的な言葉はない。前出の三上氏も首をひねる。

「どうして殺害を考えるまで恨みをエスカレートさせたのか、まったくわかりません。これはひと言で表すなら、"ネット上の通り魔殺人"です。誰にも防ぎようがありません」

どうにもやりきれない。