「将来の年金や保険のことよりも、今この時代にSNSを使わないことのほうが、よほど自殺行為」と語る宇佐美典也氏

経産官僚として7年半のキャリアを積んだ後、同省を離れて外部から日本の政治をウオッチする立場に転じて5年半。新刊『逃げられない世代』で、著者の宇佐美典也(うさみ・のりや)氏が描き出すのは、あらゆる問題を先送りしてきた日本の限界だ。

種々のデータを基に日本の破綻を「2036年」と算出。社会保障はどう立ち行かなくなるのか、また安全保障の危機にも触れ、問題の本質を解き明かす。国家そのものが機能不全を起こす時代に、われわれはどう備えればいいのか?

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──『逃げられない世代』とは、なんとも刺激的で恐ろしいタイトルですね。

宇佐美 企画の発端は、「国の財政なんだかおかしいよね」「お金を刷って、借金をどんどんしてもいいのか」という、巷(ちまた)でいわれている日本の財政への素朴な疑問に対する回答でした。本当のところ、日本の現状がどうなっているのかを、今の20代や30代に向けてわかりやすくまとめたいと思ったんです。

──本書では、公的な統計、資料に基づいて日本の将来が具体的に展望されています。

宇佐美 僕自身が自分の将来を考える上で、既存の書籍に満足いくものがなかったことも、執筆の動機になっています。例えば政権に近い政治家は、「少子高齢化は進んでいても未来は明るい」と言うし、逆に野党に近い人は「このままではハイパーインフレが起こる」などと不安をあおるばかり。

それぞれ自分の専門領域については深い理論を展開しているものの、大局的な視点に欠ける主張が多く、どれも納得できなかったんです。だったら、確かなデータに基づいて日本の将来を俯瞰(ふかん)する、納得のいく一冊を自分で書いてみよう、ということです。

──日本社会の現状を、先送りすることでしのいできた構造的問題の成れの果てであると指摘しています。そして日本の労働力人口やGDPの推移などを材料に、遅くても2036年から40年に社会システムの限界が到来するとしています。

宇佐美 内政的な問題だけを見ても、日本の財政赤字は今、1000兆円を超え、さらに超少子高齢化によって年金や介護、医療などの社会保障システムの持続可能性が危ぶまれています。

団塊ジュニアの世代が高齢者になり、そこから寿命を迎えるまでの20年ほどは、日本が先送りしてきた数々の課題から「逃げられなく」なり、とりわけ社会保障制度に関して覆い隠してきた問題が噴出する。それが2036年頃ということです。

──現在の20代、30代はそのとき、大きな負担を背負って社会を支えていかなければなりません。宇佐美さんご自身も、まさにその世代ですが......。

宇佐美 日本が少しずつ追い詰められていく状況のなか、既存の制度でどうにか逃げ切ろうとすることが果たして幸せかというと、必ずしもそうではないと思います。

真綿で首を絞められるように生き永らえるより、インターネットの登場で個々の自由度が増している今、人生設計を広げながらそれぞれがより良い生き方を模索していくのもいいのではないかと。極端な話、本書の内容に触れて、一度絶望しておくのは悪いことではないと僕は思っているんですよ。

──どういう意味でしょうか?

宇佐美 消費税にしても、どう計算しても20%まで引き上げられるのは間違いありません。そうしなければ、社会が立ち行かないからです。問題はいつそうなるかで、段階的に20%まで上げていくのか、それともギリシャのように破綻してから一気に上げるのか。もし後者となれば悲惨ですが、それでもいずれかは必ずやって来ます。

これまでは大きな社会の中で自分の人生を考えなければなりませんでしたが、今後はインターネットを介して育まれた自分のコミュニティの中で人生設計を考えるべきでしょう。いったん絶望していろんなことを諦めてしまえば、そう割り切ることができると思うんですよ。

──インターネットの登場で自由度が増した、というのは?

宇佐美 今この時代は、SNSひとつで自分のコミュニティを構築できるわけで、それは時に脆弱(ぜいじゃく)な社会保障よりも、確実なセーフティネットになると僕は思っています。

例えば僕は、官僚を辞めてフリーになった後、しばらく仕事もお金もない、地獄のような日々を送っていました。あるとき、次の入金までの数日を1000円で過ごさなければならない窮状をフェイスブックに投稿したところ、友人のひとりが「うちの母親が近くに住んでるから、すぐ向かわせるよ」と、お母さんがやって来てカレーを作って置いていってくれたんです。これは少々極端な例であるにしても、SNS時代ならではの現象といえます。

──個人と個人のつながりが、時に社会保障的なネットワークになりうる、と。

宇佐美 そうですね。それは生活面だけでなく、仕事でも同様です。今、僕がこうしてフリーランスとして仕事ができているのも、自分のコミュニティの中で、僕の特性や得意分野を知って声をかけてくれる人がいたからです。将来の年金や保険のことよりも、今この時代にSNSを使わないことのほうが、よほど自殺行為だと思います。

──人脈が将来の生活を補填(ほてん)する支えにもなるわけですね。

宇佐美 国税庁がまとめた共働き世帯の夫婦の平均年収から、将来受け取る年金を算出すると、ふたり合わせておよそ月17万円ということになります。これに対し、家計調査における高齢者世帯の平均支出は月25万円程度ですから、単純計算で月8万円の赤字が生じることになる。

つまり将来、この赤字をどう補填するかですが、日本はますます人手不足に陥りますから、さほど心配する必要はないと思います。年金収入の中心に、いかにプラスαの収入を得るか。自分ができること、得意なことを周囲が見つけてくれるコミュニティがあれば、老後であっても仕事は得やすいはずです。

──最後に、将来のために今すぐ実践できるアドバイスをいただけないでしょうか?

宇佐美 まず円での貯金をやめることですかね。何しろ金利がほぼ0%ですから、寝かせておいても無意味です。それより40代くらいまでの人なら、一括払いの生命保険に加入しておいて、それが20年後の満期時には1.5倍になって返ってくるかもしれません。将来の生活を具体的に保障する金融の枠組みを作っていく努力は必要でしょうね。

●宇佐美典也(うさみ・のりや)
1981年生まれ、東京都出身。東京大学経済学部卒業後、経済産業省入省。2012年に退職した後は、フリーランスの立場で太陽光発電などに関わるコンサルティングの傍ら、メディア出演や著述活動を展開。著書に『30歳キャリア官僚が最後にどうしても伝えたいこと』(ダイヤモンド社)ほか

■『逃げられない世代 日本型「先送り」システムの限界』
(新潮新書 800円+税)
あらゆる問題を"先送り"してきた日本に、いよいよ限界のときが訪れる──。政官のメカニズムに精通した著者は、数々のデータからそのときを「2036年」とはじき出す。年金、保険などの社会保障はもちろん、国家システムや安全保障の破綻に対し、われわれは今何をすべきか!?

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