ベスト10のうち8作品、ベスト20のうち12作品が日本の小説

徴用工問題で日韓関係が最悪の状態といわれるが、実は今、韓国で日本小説が大流行している。

例えば、韓国南西部の大都市・光州市の大型書店「永豊(ヨンプン)文庫」の11月第1週のベストセラーを見ると、小説部門ベスト10のうち、1位『誓約』(薬丸 岳)、2位『ナミヤ雑貨店の奇蹟』(東野圭吾)、5位『君は月夜に光り輝く』(佐野徹夜)など、実に8作品が日本小説。

ベスト20まで範囲を広げると、12位『君の膵臓をたべたい』(住野よる)、15位『アリス殺し』(小林泰三)など、さらに4作品がランクインしている。

なかでも『誓約』は、実用書などを含めた総合部門でも堂々の第1位。日本での7万部に対し、韓国では実に20万部が売れているという。

「韓国で発売された2017年2月から評判はよかったのですが、まさかここまでの大ヒットになるとは。この夏だけで作品を映像化したいとのオファーが韓国から十数件も舞い込んでびっくりしています。著者の薬丸さんは韓国映画の大ファン。この作品が韓国で映画化されたらカッコいいねと喜んでいます」(日本での版元、幻冬舎の編集・出版本部の君和田麻子氏)

韓国紙の東京特派員がその背景を解説する。

「韓国ではサッカーW杯の日韓共催が決まった1990年代後半から日本小説の人気が高まり、特に近年のブームはすさまじい。大型書店に日本作家コーナーができるほどで、特に東野圭吾さんはランキングの常連です」

確かに、前述の永豊文庫でも、東野作品は小説ベスト20に5作も入っていた。

日本小説がウケる理由を、韓国文化に詳しい静岡県立大学の小針(こばり)進教授はこう語る。

「韓国では純文学が主流で、中間小説などは一段低く見られてきたため、このジャンルに進出する力のある作家が少ない。そこで、エンターテインメント性の高い日本作品が次々と翻訳されてその隙間を埋めているわけです。最近では、日本の大学生より韓国の大学生のほうがずっと日本の作家の名前を知っているなと思うこともありますよ(笑)」

面白いのは、慰安婦問題などで日韓がもめると、日本では韓流ブームが一気に冷めてしまうことが多いのに対し、韓国ではいくら外交関係が悪化しても、日本の文化コンテンツが忌避される気配がないということ。

「1965年の国交正常化当時から、韓国には政情に関係なく日本のモノや文化がかなり入ってきた。芥川賞や直木賞作品の多くが翻訳出版されてきました。だから、徴用工問題で両国関係が最悪と報じられるこの時期でも、特に日本小説が問題視されるようなことにはなっていないのでしょう」(小針氏)

ちなみに、韓国の書店では「反日」本もほとんど見当たらない。