一部の悪質な日本語学校では、留学生の日本語能力の低さを利用して、高額な寮費を取るなどさまざまな搾取が行なわれている

日本の産業はもはや外国人なしでは成り立たないと言っていい。そんななか、政府は外国人労働者の受け入れ拡大のため、入管法(出入国管理法)改正を今月にも成立させようと躍起だ。

ただ、この改正は日本で働く外国人が超低賃金だったり、悪徳な人材業者の食い物になっていたりする現状を、さらに悪化させる危険があるという――。

* * *

「今、いくつですか?」

目の前の赤いジャンパー姿の青年に尋ねると、言葉を理解できなかった彼は、目を白黒させた。ベトナム・ハノイ出身のビン氏(27歳)は、妻と共に来日して3ヵ月目だ。年齢の質問という、初心者レベルの日本語会話すら怪しいにもかかわらず、彼らの身分は「留学生」である。

「日本語を学ぶためではなく働きに来た。同じ学校のベトナム人留学生たちも、9割は就労が目的だ」

ベトナム語でそう話す彼は、広島市内の日本語学校に在学しながら、大手牛丼チェーンと弁当工場でかけ持ちして働いている。授業への出席は最小限で、事実上の偽装留学生といっていい。

本来、学業が本分とされる留学生のアルバイトは「資格外活動」として週28時間以内に定められ、オーバーすれば不法就労になる。だが、「友人の全員が法定時間以上働いている」とビン氏は話す。

「複数のバイト先をかけ持ちすれば、めったにバレない。夜勤のほうが時給が高いから、休日ゼロで工場の夜勤を6週間連続でやった人もいる。午前3時まで働いて、睡眠は学校で取るから、勉強なんかできないよ」

ビン氏は出国前、日本語学校の学費や入学金、ブローカーへの手数料などを夫婦ふたりで約260万円負担している。「日本で稼げば取り戻せる」と考えたからだ。実際、夫婦のベトナムでの世帯月収は8万円程度だったが、日本では30万円ほどの収入があり、夏季休暇などにはもっと稼げるという。

「ただ、学費の負担が大きすぎる。仮に単純労働ができる就労ビザがあれば、もちろんそっちを選んだ。留学生にはならなかったよ」

これまで政府は、高度な技能を持たない外国人の就労目的の在留を禁じてきた。だが、人手不足に悩む日本社会には非熟練労働力の需要が大きく、発展途上国の人たちにとっての日本は、今なお自国より賃金が高い国だ。

ゆえに就労を望む外国人労働者は留学生を装うか、外国人技能実習制度(後述)を利用するかして、日本で働くしかなかった。偽装留学生の実態は、学校をサボりバイト漬けになったダメ学生ではなく、最初から就労目的で来日している労働者なのである。

近年急増するベトナム人"留学生"の実態とは? そして地方に根付いている技能実習制度の問題点とは? 『週刊プレイボーイ』51号(12月3日発売)では、より深く外国人斡旋ビジネスの闇に触れている。