「原発事故処理のウソが民主主義を壊している」と語る日野行介氏

2011年3月の福島第一原発の事故後、大量にまき散らされた放射性物質が福島県をはじめ周辺地域に降り注いだ。政府は放射能汚染対策として、汚染された地面の表土を削り取るなどの「除染」を行なってきたが、その費用はトータル4兆円に及ぶと試算されている。

そして、除染によって発生した大量の「汚染土」を環境省は「資源」と言い張り、公共事業などに再利用しようという計画を立てて秘密裏に会議を重ねてきた。環境省の担当者に直撃取材を重ね、会議議事録の改ざんを突き止め、『除染と国家 21世紀最悪の公共事業』(集英社新書)を上梓した新聞記者・日野行介(ひの・こうすけ)氏に話を聞いた。

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■国は自分たちが作った「原発が必要だ」というフィクションに振り回されている

――日野さんは以前、毎日新聞の福井支局敦賀駐在にいらしたんですね?

日野 はい。そこが原発とのつき合いの始まりですね。私は最初が大津支局で、特に敦賀は希望して行ったわけじゃなかったんですが、行ってみたら、敦賀の記者クラブでは昔から「全ての道は原発に通ずる」と言われてて。まさに、そのとおりの場所でした。

まちづくりのニュースから、農業のニュースから、全てのニュースが原発に関係しているんです。原発に関係してないものは、ほぼない。たとえば敦賀で当時――今から二十年ぐらい前ですが――産業廃棄物処分場に許可量の十二倍を不法に埋め立てたという事件があったんですが、その処分場がなぜできたかというと、敦賀原発2号機の土台をつくるための石を採った跡地だったんです。

――原発の土台の石を採石して、地面に大きな穴が?

日野 そうなんです。そのぐらい、原発に絡んでないものが何もないという感じで。

――敦賀周辺には敦賀原発2基、美浜原発3基、大飯原発4基、高浜原発4基、「もんじゅ」が1基と、計14機の原発が集まっていて「原発銀座」と呼ばれてますね。

日野 そうなんです。私は今は、東海第2原発のある茨城の水戸支局にいるんですが、全然違いますね。ちょっと語弊があるかもしれませんけど、敦賀はすべてが原発に支配されている町でした。

――歴代の敦賀の市長が、全国原発所在市町村協議会の会長をやってきたそうですね。まさに原発とともに生きてきたというか、原発をどんどん誘致して町おこしに使って。

日野 しかも、それがほとんど失敗ばかりなわけです。たとえば、原発の交付金や寄附金がたくさんあって、短大を造ったら全然定員に満たなくて......。

――人が集まらない?

日野 そうなんです。よそからも来ないし、もともと地元に人口が少ないのにむりやり作ったから。他には、高速増殖炉もんじゅの交付金で市が温泉施設を造ったら、赤字になったり、いいかげんな話ばっかりです。最初からお金を使うのが目的で造っているから、クオリティーの方に関心が行かない。

――原発で湯水のようにお金が来ちゃったから、「どう使おうか?」って、適当に造ったら間違っていたと?

日野 ええ。敦賀市には建設業に関わる人の割合が非常に多いんです。敦賀市と人口規模がだいたい同じぐらいの越前市というのが福井県にあるんですが、その越前市に比べて、敦賀市には2倍ぐらい建設業者が多くて。

原発って実は、雇用にあまりつながってないんです。実際に多くの人が要るのは定期検査のときだけですから。じゃあ何で食うかといったら、建設業ぐらいしかない。土建しかない。その土建を食わせるために原発の交付金や寄附金をどんどん使わなきゃいけない。それでどんどん建物を建てて、その維持費で自分の首を絞めていくという構造なんです。

――日野さんが敦賀駐在を離れたのは?

日野 2005年なので、もう13年前ですね。当時は敦賀原発の3、4号機の増設問題があったんですが、今でもまだ建っていなことにビックリしますね。

――それは反対運動があったり?

日野 いえ、反対はほとんどないです。むしろ需要がない。

――電力は足りているから?

日野 そうなんですよ。

――それなのに政府や経産省は原発再稼働を急いだり、最近では小型原子炉を作ろうとか「もんじゅ」の後継機を作ろうとか言ってます。なぜそんなことをするんでしょう?

日野 原発政策を決める真ん中、中核があるのかって、私はずっと疑問に思ってます。その中核を見た覚えがなくて。まるでタマネギのようなイメージですね。真ん中がないんじゃないかという。その辺をこの『除染と国家』でも若干触れているつもりなんですけど。

国は自分たちが作った「原発が必要だ」というフィクションに振り回されて、フィクションにつじつま合わせるために変な政策を考えている、というそんなイメージですね。「もう動かしちゃったから。動かして物事が進んでいるから、立ちどまれない」というだけの話のような気がします。

■官僚は、最初から、「結論ありき」で政策を決める

――なるほど。ただ、3.11の後、原発は一時、全て止まっていたわけですよね、2年近く。それなのに、「また動かさなきゃいけない」とする理由は?

日野 雇用だったり、廃棄物だったりとか、いろんな人が関わっていて身動きがとれない状態になっている中で、「じゃあ、ここで別の政策をとれるのか」といったら「とれねえだろう」という、開き直りのようなものを感じますね。

――「別の政策なんかとれないよ」と考えるのは、官僚?

日野 はい。この本でもかなり触れているところですけど、日本の官僚って、今までの政策との整合性というものをすごく考えちゃうんですね。「ここまで来ましたね」と。「ここまで来たんだから、じゃ、次の政策、こうしましょう」と。その際に、前提と矛盾するような政策はとれない形になっちゃっているんだと思います。

――「原発は基本的にあるんだよ、続けるんだよ」という政策ありき、という姿勢を変えたくない?

日野 むしろ、「変えられない」と思っているんじゃないでしょうか。

――『除染と国家』という本の中心となっている除染について特に取材していて、一番見えてきたことは?

日野 やっぱり、ウソの大きさですね。もちろん、敦賀での原発取材でもウソの大きさには触れているつもりだったんですけど、福島第一原発の事故が起こって、事故の処理があっても、なおやっぱりウソが大きい。そして、ウソが何を壊しているのか、ということです。私は、「原発事故処理のウソが民主主義を壊している」と思うんです。

――この本の中心的命題ですね。環境省の秘密会議の議事録の改ざんとか。

日野 そうですね。彼ら官僚は、最初から、「結論ありき」で政策を決めるんです。その典型例としてあるのが、汚染土の再利用。「これからこういう政策を決めていきます」という際に、官僚たちも一応ポーズを取らなければいけない。「ちゃんと有識者にも話を聞いて、一般の人の意見も聞いてますよ、これは正当な政策ですよ」という体裁を取らなくちゃいけない。でも本当にそれをやってしまったら、その政策が取れなくなるんですよね。

――有識者の意見が予想と違ったり一般の人が反対すると、最初に「結論あり」で決めた政策が取れない?

日野 ええ。だから秘密裏に集まって「こういうウソをつこう」「こういうごまかし方をしよう」って検討しなきゃいけなくなる。「こういうごまかし方なら、イケるんじゃないか」となったときに初めて、「この政策をします」というのを表に出して。

でも、そんなウソやごまかしをいっぱい並べたら当然バレるし「そんなのおかしいじゃないか」ってなりますよね。でも国民がそう言ったときには「いや、もう決まっていますから。閣議決定したわけですから」と言って押し通して、そのまま突き進もうとする。原発事故の処理というのはほとんど、その繰り返しなんです。

◆後編⇒「原発は正しい」というフィクションを守るために官僚はウソをつく――『除染と国家』著者・日野行介インタビュー

●日野行介(ひの・こうすけ) 
1975年生まれ。毎日新聞記者。九州大学法学部卒。1999年毎日新聞社入社。大津支局、福井支局敦賀駐在、大阪社会部、東京社会部、特別報道グループ記者を経て、水戸支局次長。福島県民健康管理調査の「秘密会」問題や復興庁参事官による「暴言ツイッター」等多くの特報に関わる。著書に『福島原発事故 県民健康管理調査の闇』『福島原発事故 被災者支援政策の欺瞞』(いずれも岩波新書)、『原発棄民 フクシマ5年後の真実』(毎日新聞出版)等

■『除染と国家 21世紀最悪の公共事業』(集英社新書 860円+税)