老朽化で破裂寸前の水道管が年々増えているが、肝心の更新作業はなかなか進まない

■水道管の更新が遅れているワケ

昨年12月に改正水道法が成立した。その目玉は水道事業の"民営化"にある。これにより「日本の水が外資に買われる」「水道料金が上がる」などと反発する声が各地で上がっているが、その前に知るべき現実がある。それは、老朽化で破裂寸前の水道管が地中に大量に埋まっているということだ(前編記事参照)。

だが、厚労省によれば、老朽管更新の進捗率は、毎年1%以下。このペースでいけば、すべての老朽管を入れ替えるのに「130年以上かかる」(厚労省・水道課)という。

水道管の更新が遅れている最大の理由は、自治体の財源不足だ。市の水道局など、地方公共団体が担う水道事業は水道管の更新を含め、市民から得る水道料金によって賄われている。だが、厚労省によると全国の上下水道事業者1273団体のうち、33%に当たる424団体が、給水コストが水道料収入を上回る"赤字状態" にある。

地方では人口減少が進み、 都市部では節水トイレの普及で水の使用量がこの10年で半減した。こうした背景もあり、水道事業者の経営状態は年々苦しくなっているのだ。

それなら水道料金を値上げすれば?と思うが、これもそう簡単な話ではない。「水道料金の改定には議会の議決(過半数の賛成)が必須。でも、値上げすれば住民の反発は不可避だし、選挙に当選できなくなるから、首長も議員も誰も値上げを決断できない」(水道業界紙記者)のだ。

そこで厚労省が推進してきたのが水道事業の広域化である。

隣接する市町村の水道局同士が連携、もしくは統合することで、規模のメリットを生かし、ムダを省くことで、水道事業の効率化を図ろうとの取り組みである。しかし実は、これもうまくいってない。水ジャーナリストの橋本淳司氏がこう打ち明ける。

「その理由は水道料金の地域間格差です。近接する市町で2倍近く差があるケースもある。広域化の取り組みでは、水道事業の運営上、安いほうが高いほうに合わせざるをえないケースが多いのですが、そうなると値上げを強いられる町では反発が起きる。あとは、A市とB市の首長同士が"仲が悪い"という理由で広域化が進まないケースも少なくありません」

一方、現場の人手不足も水道管の更新が滞る要因になっている。

「経営が悪化するなか、水道事業は採用を控えたせいで職員数が年々減少。80年度には 全国に7万6000人いましたが、16年度には4万5441人になり、今ではひとり体制、ふたり体制の事業者も珍しくありません。そのため、技術の伝承もうまくいってない」(橋本氏)

破裂事故の前兆となる水道管の漏水を調査する人員が不足している

■水道管の更新を担う管工事業者が激減

ただその一方で、漏水調査を行なう民間の業者は潤っていた。九州で漏水調査会社を経営する社長がこう話す。

「現在、九州の各自治体から続々と受注が入り、売り上げは前年比5割増。毎年うなぎ上りです」

漏水調査の仕事は、けっこう過酷だ。

「100kmの水道管の漏水調査を4ヵ月ほどかけて行ないます。音聴棒を道路に突き当て、水漏れがないかを音で聴き分けながら、一日の作業で5、6km歩くんです。水漏れがあれば『ゴーッ』という音が響き、なければ何も音はしません。ただ、交通量が多い昼間だと騒音で水漏れを示す音を聴き分けることができないので、夜10時から翌朝3時までの夜間作業となります。最近はやはり、漏水が見つかるケースがかなり増えていますね」(社長)

実は今、調査をほぼしない自治体も増えているという。

「その理由は、やはり予算の削減。また、深夜労働を強いられる仕事なので、若手の確保が難しく、高齢化が進むばかり。そのため、人材難に陥った会社が廃業するケースが増えており、弊社の所在県ではわれわれも含めて2社しか残っていません。なので水道局からすると"漏水調査をしようにも発注先がない"という事情もあるでしょう。

漏水は水道管破裂事故の前兆現象のひとつ。事故を未然に防ぐためにも、本来は定期的な調査を続ける必要があるのですが......」(社長)

さらには、水道局が策定した更新計画に沿い、各現場で水道管の入れ替え工事を担う土木業者の数も減っている。

宮崎県延岡市で管工事を行なう土木会社の社長がこう話す。

「延岡市の場合、2000年時点で 36社ありましたが、その後、廃業が相次ぎ、今は半減しています。地方ならどこも同じでしょう」

なぜ、管工事業者の数が減っているのだろうか。

「一件当たりの受注額が減り、儲けにならないからです。弊社を含めて残っている業者も厄介な仕事には手を出さなくなっています。

例えば、もともと湿地帯や池があった地区は1m掘るだけで水浸しになり、ポンプで水をくみ上げながらの困難な作業を強いられます。また山を切り崩して宅地を造成した地区では、地中に重機を使っても歯が立たない岩が潜んでいる可能性が高い。こうした場合は、水道局の担当者と交渉し、追加料金をもらって作業を完了させるのですが、水道局は最近、それすら出し渋るんですよね」

水道技術の研究開発や調査事業を行なう、公益財団法人「水道技術研究センター」の常務理事、佐々木史朗氏もこう話す。

「今、水道局が発注する水道管入れ替え工事が入札不調に終わるケースが全国で続出しています。市の水道局など、水道事業者側では更新財源が少なく、発注費に割り当てられない。請け負う業者からすれば作業内容に見合わないから、管工事から撤退し、より財源の多いほかの公共事業にシフトする。

現場を支える会社も人も減っていることが、 水道管更新を遅らせる最も深刻な問題なのかもしれません」  

政府が推し進める水道事業の民営化で、これらの問題を解決できるだろうか。