高齢ドライバーによる事故が相次ぐなか、「自分の父親にも運転をやめてほしいが、説得できない」と悩む息子たちの声があふれ始めている。他人のアドバイスを一切聞かない頑固な父親にどのように言い聞かせればいいのだろうか? 

■なぜ父親は皆「頑固」になる?

そもそも、なぜ年を取ると「頑固」になってしまうのか? 認知症の専門外来と在宅医療を行なう医療法人ブレイングループの理事長・長谷川嘉哉氏はこう説明する。

「大きな理由は『前頭葉の衰え』です。前頭葉機能は40代からゆっくりと低下し、50歳前後で大きく衰えるのが一般的。理性的な判断がしづらくなるとともに感情の抑制が苦手となるため、周囲から見るとどう考えてもまっとうな意見でもなぜか受け入れない、いわゆる『頑固』という状態になると考えられます」

では、そんなあらがえない老化と闘う父親を説得する際の根本姿勢はどうすればいい? 明星大学心理学部准教授で臨床心理士の藤井靖氏はこう説明する。

「人は年を取れば取るほど『有能感(自分はなんでもできるという感覚)』が高まり『メタ認知能力(自分のことを客観視する力)』は低くなるもの。高齢の方が衰えを自覚するのは難しく、特にこれまで一家の大黒柱として生きてきた父親が注意を素直に受け入れることは相当ハードルが高いことを家族は理解する必要があります。

なので、無理に『説得しよう』とするのではなく『納得してもらおう』という意識で、本人の気持ちに寄り添いながらコミュニケーションを取ることが重要です」

ということで、コミュニケーションの専門家たちに上手な言いくるめ術を聞いた。

■快く免許返納させる方法は?

運転免許を快く返納させるには、どうすればいいのか?

「反応や判断力が落ちているのは明らかだけど、違反したり事故を起こしたりはしていないので強く言えない」「父親に免許返納を勧めてケンカして以来、会話の回数が激減した」などの声があり、切り出し方はなかなか難しそう。父親側の心理について、前出の藤井氏はこう語る。

「突然、免許返納を促されるのは、本人からすれば青天の霹靂(へきれき)のようなもの。定年退職のように心の準備期間があるわけではないため、長年運転してきた方が簡単に受け入れられないのは当然ともいえます」

では、何かいい方法はないのだろうか? 『損する気づかい 得する気づかい』(ダイヤモンド社)の著者で人の心の掌握術に詳しいコラムニストの八嶋まなぶ氏に聞いてみた。

「男は何歳になっても人から尊敬されたい生き物なので『もう高齢だから』といった言葉はプライドを傷つけるだけなのでNG。『率先して免許を返納する人って、社会のかがみでカッコいいよね』と、心をくすぐる形で伝えるのが正解です。

『自分は流行の最先端を取り入れ、社会にも役立つ人間』という前向きな気持ちで自主的に返納してもらいましょう」

また『大人力検定』(文春文庫PLUS)の著者でコラムニストの石原壮一郎氏からはこんな提案も。

「伊東四朗さん、高木ブーさんら免許返納をしたり、黒柳徹子さんのように更新をしなかった芸能人を『さすが、何かを成し遂げた人は違う。尊敬できるなぁ』と家族みんなで褒めるのも効果的。直接『お父さんも返納すれば?』とは言わず、あくまで間接的に伝え、自分で決断するという形にうまくお膳立てしてあげましょう」

確かに角は立たなそうだが、決断するのに少し時間がかかりそう。では、すでにサイドミラーやバンパーをぶつけるなど大きな事故の前兆があり、直ちに運転をやめさせなければならない場合、どうすればいい?

「半ば強引に取り上げる場合でも、大人な姿勢のコミュニケーションが必要。危険の大きさを説明する前に、父親のこれまでの人生がどれだけ素晴らしいかを力説し、自尊心をくすぐりましょう。その上で『こんな立派な人生を台なしにするリスクを背負うのはもったいなさすぎる』と伝えれば、納得度が大きく変わってくるはずです」(石原氏)

さらに、こんな奥の手もあった!

「息子からでなく『孫』から伝えるというテクニックも有効。そのとき『危ないよ』と注意させるのでなく『怖い』とおびえる姿を見せるようにお願いしましょう。『自分の大切なものを守らなければ』という本能を刺激する作戦です」(八嶋氏)

取り返しのつかない事態を防ぐためにも、繊細な父親の心理を理解して適切な言葉や手段を選ぶことが重要そうだ。