親がどのような解説をしてあげるかが、幼児とアニメを見る上では重要でしょう

先月、横浜アンパンマンこどもミュージアムが新装されたが、一方でアニメ『それいけ!アンパンマン』の「アンパンチ」を見た乳幼児が「暴力的になる」と心配する親の声がネット上で話題に。原作者の故やなせたかし氏はかつて「パンチを切り出すときは、ぎりぎりの線」とコメント。

タレントでエッセイストの小島慶子が、世間の気になる話題に思うあんなこと、こんなこと。

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アンパンマンは殺しません。

あれは「悪の権化ばいきんまん殲滅(せんめつ)を目指すアンパンマンvsアンパンマン殺害をもくろむばいきんまん」って話ではなく、「いろんな個性を持ったパンキャラたちが繰り広げる日常と、困っている人を助けることを使命とするアンパンマン」というお話。

ばいきんまんは厄介なやつではあるけれど、彼らのコミュニティのメンバーとして認知されており、排除すべき敵という設定ではありません。そういう文脈を含めて親がどのような解説をしてあげるかが、幼児とアニメを見る上では重要でしょう。

もし子供がアンパンチのまねをしたら、パンチされると痛いからやめてほしいし、自分はばいきんまんではないのでパンチは不当であると伝えて、なんでパンチしたくなったのかを子供に聞いてみるいいチャンスです。

私は息子たちにたくさんの絵本を読み聞かせてやったのですが、福音館書店の『かちかちやま』が好きでした。アニメでかわいく加工されたお話ではなく、民話のおどろおどろしさそのままの古典調で、タヌキによる身も凍る猟奇殺人事件です。

鍋を食べ終えたおじいさんの前でおばあさんに化けていたタヌキが正体を現すところなんかは「婆汁食ったし粟餅(あわもち)食った、流しの下の骨を見ろ!」ですからね。あまりの凄惨さに震えます。そこからウサギの復讐譚(ふくしゅうたん)が始まるのですが、おばあさんのあだ討ちとはいえウサギの沈着さと執念には背筋が寒くなるものがあります。

最終的には泥舟に乗り込んだタヌキが溺死するところが描かれて終わるのですが、その絵がまた実に怖い。アンパンチの比ではない心的外傷レベルの殺害、暴力シーンが多く描かれているわけですが、それで息子が暴力的になるなんて思いませんでしたよ。

だって読んでやっている私が「うっわ、ばあさん汁にして骨にしたとかまじきめえw ウサギもタヌキに火つけるとかまじウケる! で、白目剥(む)いて溺れてるタヌキww」って態度じゃなかったですからね。心底震えながら読みましたから。その態度が子供にはビンビンに伝わっていました。

つまりですね、物語を子供に与えてあげる大人の態度のほうが、ストーリーの表現そのものよりもはるかに重要なのです。アンパンチが子供を暴力的にするのではなくて、アンパンチがどのようなものであるかを大人が理解していないことが問題なんですね。

しかしアンパンチもマンネリ化してきたことだし、これを機にヨイキンマンなどのプロバイオティクスキャラを登場させて、腸内フローラと免疫機能の強化で食あたりを寄せつけないという闘い方を提示するのもいいかも。

そしたらアンパンマンは過激さを増す戦闘業務から解放されて、空腹の子供を助けるという本来の業務に集中できますからね。ジャムおじさんには子供食堂を開いてほしいものです。

●小島慶子(こじま・けいこ) 
タレント、エッセイスト。テレビ・ラジオ出演や執筆、講演とマルチに活動中。現在、日豪往復生活を送る。対談集『さよなら!ハラスメント』(晶文社)が好評発売中

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