『週刊プレイボーイ』で「挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソン大阪・西成(にしなり)区の「あいりん地区」について語る

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先日、あるテレビ番組のロケで大阪・西成区の「あいりん地区」を訪れ、そこに暮らす人々や観光客などに話を聞く機会を得ました。

多くの日雇い労働者が暮らすこの街は、かつてはテレビカメラはおろか、一般の人が気軽に足を踏み入れられるような場所ではないという時代もありました。

ただ、数年前から外国人バックパッカーがこのエリアの安宿を利用するようになり、ダークツーリズム的に興味本位で訪れる日本の若者も増えているようです。そして今や、この街は単なるダークツーリズムを超えて"再構築"されつつあるような気がします。

このエリアに最近できたというある飲食店でのこと。内装は非常に洗練され、地元産のクラフトビールを提供するおしゃれなカフェバーでしたが、知的障害者、対人コミュニケーションが苦手そうな人......と、"普通の店"ではなかなか雇われることがないような多様な人たちがスタッフとして働いています(彼らを見守る世話役的なスタッフもいました)。

最初はこちらも少し構えてしまう部分がありましたが、20分もすれば慣れてしまい、誰もが自然にその場を楽しむようになる。その雰囲気を眺めているうちに、現代の"包摂されざる社会"に対するひとつの答えを見たような気がしました。

あいりん地区は、なんらかの理由でドロップアウトした人、社会から取り残された人、何かに追われて来た人―つまり、資本主義の枠組みから外れた人たちを長年受け入れてきました。

閉ざされた世界にそうした人たちを囲い込もうとするヤクザや極左活動家の存在もあり、つくり上げられた異様な"ムラ"の中で、多くの労働者が安い賃金で資本主義社会のボトムを支えてきたわけです。

それは、言ってしまえばある種の"隔離"、もう少し軽くいうなら"棲(す)み分け"だったのかもしれない。ただ、この店の多様性あふれる雰囲気のなかでビールを飲むうちに、僕は徐々にその壁が崩れつつあるのを感じたんです。どんな人も包摂して、共存しよう。そこに街全体が再構築されていく機運を見ました。

繰り返し語ってきたことですが、近年、日本に限らず欧米をはじめとした先進国ではリベラルが迷走しています。

グローバリズムの影響で、上位1%のスーパーリッチに富が集中するいびつな格差社会に突入した結果、リベラルはこの現実を「破壊」しようと極左に舵を切り、やれ累進課税を強化しろ、富裕層の相続税の税率を引き上げろ、大学の授業料を全額無償化しろ、と"庶民"がうれしくなるような政策ばかりを主張している。

資本主義によって世界が回っているという事実も、その仕組みをスクラップしたらどれほど多くの人が"返り血"を浴びることになるかという議論も無視して(最近、日本にもそうしたポピュリズムが勃興し始めていますよね)。

そうではなく、本来は緩和ケアのように、いかに痛みを除去していくかを考えるしかないわけです。政治や選挙で一気に変えようというやり方ではなく、ストリート(=草の根)で個々人の意識を変え、自らが行動して包摂されざる人たちを抱え込んでいく。

棲み分けではなく共存。あいりん地区では、ある意味で日本のどこよりも先進的なアクションが始まっているのかもしれません。

●モーリー・ロバートソン(Morley Robertson)
国際ジャーナリスト。1963年生まれ、米ニューヨーク出身。日テレ系情報番組『スッキリ』の木曜コメンテーター。ほかに『報道ランナー』(関西テレビ)、『水曜日のニュース・ロバートソン』(BSスカパー!)などレギュラー多数。本連載を大幅に加筆・再構成した書籍『挑発的ニッポン革命論 煽動の時代を生き抜け』(集英社)が好評発売中!

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