小木港の6~11月の1隻当たりスルメイカ漁獲量は前年同期比7割減。※写真はイメージです

日本海のスルメイカ漁場に異変が起きている。

日本のスルメイカ釣り漁獲量三大漁港のひとつ、小木港(石川県能登町)の漁期は例年6月~年明け1月までだが、今年6~11月の1隻当たりの漁獲高は70tと前年同期から約7割減、10年前からは9割近くも落ち込み、卸値も1箱1万5000円と昨年の3倍に急騰しているのだ。

石川県漁協小木支所の坂東博一氏が現状を明かす。

「漁協に二十数年いますが、ここまでイカが取れない事態は初めて。値が高すぎて市場ではなかなか買い手がつかず、一部の加工会社ではイカの取り扱いをやめる動きもあります。小木港は100年前からイカ一本(例年は水揚げ量の95%)で漁を続けてきましたが、このままでは操業をやめる漁師が相当数出てくる恐れがあります」

小木港のイカ釣り漁船は、港から20時間ほどの日本屈指の好漁場「大和堆(やまとたい)」へ向かい、1ヵ月ほど操業したら帰港して水揚げし、また出港するという漁を漁期の間に6、7回繰り返す。

漁法は集魚灯でイカを集め、20~30本の擬餌針(ぎじばり)が連結した2本の釣り糸をイカ釣りロボットが巻き上げる方式で、1回の巻き上げで最大50杯のイカが取れる。しかし、「今年は"カラ"ばかりで、たまに引っかかる程度」(地元漁師)なのだという。

不漁の原因について、前出の坂東氏はこう憤る。

「大和堆は日本のEEZ(排他的経済水域)内にありますが、中国と北朝鮮の船団が侵入し、違法操業による乱獲を繰り返している。その影響が大きいのです」

まず北朝鮮について、『日本の海が盗まれる』(文春新書)の著者で東海大学教授の山田吉彦氏が説明する。

「北朝鮮の船団は最大1500隻に及び、大和堆の漁場いっぱいに展開します。特に今年はその数が急増しています」

その理由を、前出の地元漁師が明かす。

「北朝鮮の船はロシアのEEZ内でも密漁を行なっていますが、今年は約800人の船員が拿捕(だほ)された。露当局の締めつけが強まったため、取り締まりが"優しい"日本の漁場に繰り出す船が増えたんです」

漁場には中国の巨大船団が押し寄せる

ただ、北朝鮮よりもさらに強烈なのが、中国の巨大漁船団だ。前出の坂東氏が言う。

「日本の漁船が200トン規模なのに対し、中国船は500~1000トン級。これが数百もの船団を組み、大和堆のイカの通り道に漁期の間ずっと居座ります」

漁場では、1km四方の巨大な網にかかったイカをポンプで吸い上げる「虎網漁」などで一網打尽にするのだという。

さらに厄介なのが、この両国が"連携プレー"をしているとみられる点だ。前出の山田氏はこう語る。

「中国は日本海にEEZを有していませんが、漁船を持つ一部の中国企業が北朝鮮から日本海での漁業権を買い取っています。また、冷凍・冷蔵設備がない北朝鮮漁船は大量の漁獲があっても鮮度を保ったまま持ち帰れないため、中国の船団がイカを海上で買い取る"瀬取り"を行なっているフシがある。これらは北朝鮮からの水産物の輸入を禁じている国連安全保障理事会の制裁決議違反でもあります」

こうした"密漁"には海上保安庁と水産庁の取締船が監視の目を光らせているが......。

「大和堆に出動する水産庁の取締船は10隻もない上、民間の船を借り上げたものが多く、水産庁の取締官が1、2名乗るだけで、ほかの船員は民間人。あの大船団に太刀打ちできるはずがありません。このまま大和堆を"実効支配"される状況が続けば、遠からず日本海のスルメイカ資源は枯渇します」(前出・漁師)

日本のイカ危うし!