京都某所で昨年11月4日に撮影された写真。着工予定日から3日たっても、土地は雑草が生えたままの更地だったという。こうした未着工ホテルはほかにもある(写真提供/長谷川不動産経済社)

新型コロナウイルス流行の影響で多くの産業が被害を受けているなか、とりわけ危機に瀕(ひん)しているのがホテル業界である。

観光地のホテルや旅館では、ウイルスの脅威が広まるにつれ、日本人観光客だけではなく外国人観光客の予約キャンセルも激増。2月には愛知県蒲郡市の観光旅館「冨士見荘」が、中国からの団体ツアーのキャンセルが相次いだことを受け経営継続を断念している。

ホテル評論家の瀧澤信秋氏は昨今のホテル業界事情を次のように語る。

「インバウンド需要は年々増加しています。2015年に約2000万人だった外国人観光客は、19年には約3200万人まで増加。今やインバウンド需要はホテル業界にとって欠かせません」

だからこそ今、新型コロナの流行による外国人観光客の激減が大きな痛手となっているわけだが、実はホテル業界の苦境はそれ以前から始まっていた。それはホテルの「供給過多」の問題だ。

「16年頃は外国人観光客が増え続ける一方で、京都などの観光地では深刻なホテル不足に陥っていました。18年の民泊解禁で状況はやや解消されましたが、宿泊料金は高いまま。そんな状況を受けて、ホテル開発計画が次々と立ち上がったのです。

しかしその結果、今ではホテルが増えすぎてむしろ供給過多になりました。それだけでもマズいのに、追い打ちをかけるように新型コロナの影響が広がり、関係者の思惑は完全に空振ってしまった形です」(瀧澤氏)

不動産コンサルタントの長谷川 高氏は、ホテルの供給過剰によって奇妙な現象が起きていると指摘する。

「私は京都で"着工されないホテル"を数多く目撃しました。建設計画の告知看板が立っているにもかかわらず、着工予定日を過ぎても一向に建設が始まらないのです。インバウンド需要などを見込んで開発計画を立てたものの、ホテルの乱立によって業績不振が進んでいることを受け、銀行が開発業者に融資を渋っていることが理由のようです」

最近は新型コロナ流行によってホテルの宿泊料金が低下していると報じられている。だが、実はその前から供給過多によって値崩れは進んでいたという。

「特に競争が激しいミドルクラス以下のホテル宿泊料は軒並み安くなっていました。そこに新型コロナ問題も重なって、今や宿泊施設は価格崩壊を起こしています。例えば、観光客からの人気が高い京都にはピーク時の3分の1以下の価格になっているホテルも少なくありません。

また、京都のような極端にインバウンド客の多い観光地だけでなく、ほかの地域でも客足の減少は深刻化しています。最近では東京でも空室率が上がっていて、平日なら2000円台で泊まれるカプセルホテルも増えてきました。東京五輪でインバウンドのピークを迎えられるはずでしたが、今の状況ではそれもどうなるかわかりません」(長谷川氏)

一般ユーザーにとってみれば、宿泊料が安くなるというのはありがたい話でもあるが、ホテル関係者の苦悩はまだまだ続きそうだ。