那覇空港では5ヵ所にサーモグラフィーを設置。ただし発熱者が検査などに応じるかどうかは任意だという

国内旅行代金の最大半額相当を支援する「Go To トラベル」キャンペーンが7月22日から始まった。予算総額約1.7兆円に上る政府肝いりの観光支援策だが、各空港では新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐ"水際対策"に追われている。

7月末に連日、過去最多の感染者数を更新した沖縄県の玄関口・那覇空港では、国内線の到着口など5ヵ所にサーモグラフィーを設置し、手荷物受取所から出てきた観光客らの状況を専任のスタッフがモニターで注視する。

体に熱を帯び、画面上に赤く映る人にはスタッフが声をかけ、体温計での再検温を要請する。もし37.5℃以上なら、空港内に常駐する看護師が問診し、PCR検査あるいは経過観察を促すという手順だ。

PCR検査の場合、空港内の一室で沖縄県の職員が発熱者の唾液を採取。検体は近隣の検査センターに搬送され、翌日には判定結果が出るという。担当の県職員がこう話す。

「鼻の奥の液を拭(ぬぐ)うのは医療行為ですが、唾液の採取なら医師以外でもできます。検査結果が出るまで発熱者の方には近くの宿泊施設で待機してもらい、陽性なら県内の医療機関などに入院してもらうことになります」

8月上旬には、空港内での検査をPCR検査から、よりスピーディな唾液による抗原検査に切り替えるという。

「抗原検査なら外部の検査機関に検体を運ぶ必要がなく、1時間程度で判定が出ます」

だが、万全かに見える水際対策も、現場では大きな問題が浮上していた。 

「『Go To』が始まった7月22日から26日までにサーモグラフィーで発熱を感知した方は12名いましたが、検温に応じてもらえないケースがありました」

ある男性客の場合、その体はモニター上で真っ赤に映っていたが、スタッフの呼びかけに応じず、足早にその場を立ち去ってしまったという。

なお、こうした問題は国際線では基本的に生じない。厚生労働省の担当者が説明する。

「国際線の場合、入国拒否対象地域(146の国と地域)から入国した人には日本人も含めて全員にPCR検査が実施され、結果が出るまで空港内のスペースなどで待機しなければなりません。これは検疫法に基づく措置で、従わない場合は罰則の対象になる場合があります」

一方、国内線利用者に対する検温や検査は「感染症法」に基づくものだが、法的な強制力はない。

「かつて患者を不当に強制隔離したハンセン病政策の反省から、現在の感染症法は私権の制限には抑制的です。国や自治体が取る措置には人権の尊重が求められ、検温や検査の実施には"本人の同意"が不可欠となります。もし拒否されたら、われわれはどうしようもありません」(前出・沖縄県職員)

しかし、空港で発熱が発覚すれば旅行が台なしになってしまうから、検温には応じたくない――そう考える人がいたとしても不思議ではない。この点をどうするのか?

「ひとりでも多くの方に検温や検査に応じてもらえるよう、航空会社に機内アナウンスで検温への協力を呼びかけてもらったり、到着口に配置する人員を増やすといった対策を考えています。

また、サーモグラフィーで熱を感知した方に対しては、現場のスタッフが失礼のないよう『検温にご協力ください』と声かけしているのが現状ですが、少しでも足を止めてもらえるように"声のかけ方"を工夫する余地があるかもしれません。ただ、やはり強制力がないなかでは、取りうる策も限られてきます」

「Go To」を成功させるために必要不可欠な水際対策を、空港スタッフの対応力と旅行者の善意に依存せざるをえない――そんな現実がある。