深さ5mの穴があいた東京・調布市の市道

10月18日、東京・調布市で市道が陥没し、深さ5mの穴があく事故が発生した。2016年11月に福岡のJR博多駅近くで起きた道路陥没(穴の深さ15m)ほど大規模ではなかったが、今回の現場は一軒家の駐車場の目の前。タイミングが悪ければ住民を巻き込む恐れもあった。

陥没との関連性が疑われるのは、関越道と東名高速をつなぐ外環道のトンネル工事。事故の約1ヵ月前の9月14日に現場の地下約50mの地点を掘削用の重機が通っており、その頃から「(地下工事のものと思われる)騒音や振動を感じるようになった」という近隣住民の証言もある。

工事を実施するNEXCO東日本は「現在、因果関係を調査中」(同社広報)というが、地盤調査などを行なう一般社団法人地域微動探査協会の横山芳春事務局長はこう見る。

「道路陥没は通常、なんらかの原因で地中にできた空洞が上方に向かって徐々に大きくなり、最後にはアスファルトの下に達して崩れ落ちますが、トンネル工事は震度1~2級の振動を発生させる場合がある。今回も、外環道の工事の振動などが空洞を発達させる原因となり、陥没に至った可能性があります」

一方、地盤陥没に関する研究を行なう東京大学生産技術研究所の桑野玲子教授は次のように話す。

「道路陥没は全国で年1万件ペースで起きていますが、発生地点の9割以上は水道管や下水道管などの埋設物が多い市町村道です。原因で最も多いのは下水管の老朽化で、破損した箇所から管内へ土砂が流入することで管の上部に空洞ができ、これが陥没の原因になる。敷設後25~30年以上が経過した下水管には損傷が目立ちます」

今回の現場もやはり市道で、地下には下水管が通っていた。調布市によると、現場付近の下水管は「1981年に敷設し、その後交換はしていない」という。

桑野氏は「今回の事故は陥没の規模から考えて、下水管に起因するものではない可能性が高い」とみるが、トンネル工事や老朽管が陥没にどう影響したかは調査結果を待つしかない。

実は、陥没の"前兆"となる路面下の空洞は東京のあちこちにある。国土交通省が2014~15年に「道路1km当たりの空洞数」を調査した結果、国・道・府・県が管理する道路の0.59個に対し、東京都・政令市が管理する道路はその3倍超の2.06個。なかでも東京23区は2.09個と特に多かった。

東京は地下構造物が多い上、高度経済成長期に敷設された多くの下水管が更新されずに耐用年数(50年)を迎えているためだ。

前出の横山氏は都内で陥没リスクが高いエリアとして、近年大規模な再開発が進んでいる渋谷区を挙げる。

「JR渋谷駅周辺は地形的には谷底の低地に位置します。もともと川が運んできた土砂が堆積(たいせき)した軟弱な地盤の上に街が形成されていて、地盤沈下や空洞化が起きやすい。

さらに、地下鉄や上下水道管などの地下構造物が錯綜(さくそう)しています。実際、渋谷駅周辺では建物外構部の変状や道路のヒビ割れが起きている場所もあります」

路面下の空洞調査を行なう関東圏の会社社長もこう話す。

「街中には土砂で埋め直しても時間がたてばまた空洞が発生する"空洞頻発地"が点在しています。守秘義務があり詳しくは言えませんが、振動が多い地下鉄の上、古い下水管や暗渠(水路跡)の上部、あるいはローラー車で地盤を固めづらいマンホールの下......。

こうした場所を起点として、地中に入り込んだ大量の雨水が土砂を浸食する台風の襲来時期に陥没が発生しやすい傾向があります」

国や各自治体では、陥没を未然に防ぐ空洞調査が急務になっているというが......。

「調査には走行しながらレーダーで地中の状況を調べる空洞探査車が不可欠ですが、私の知る限り、国内には民間企業が保有する10台ほどしかない。自治体間の争奪戦が激しく、調査がなかなか進まないのが実情です」(同・社長)

大都市の路面下で、陥没のリスクは日々高まっている。

午前9時30分 路面陥没が始まり、水たまりが拡大午前11時50分 路面に亀裂が発生午後12時30分 亀裂の周囲が崩落し大きな穴に午後1時 穴の深さは5mに達していた