今や子どもがスマホを持つことが当たり前の時代、高校生の9割、中学生の7割、そして小学生でも5割弱がスマホを所持し、さらにスマホを持つ子どもの低年齢化も加速している(「平成30年度 青少年のインターネット利用環境実態調査」内閣府)。そんななか、「子どもがスマホを長時間使うことには明らかな害がある」と警鐘を鳴らすのが、「脳トレ」の開発で知られる川島隆太・東北大学加齢医学研究所所長だ。

川島さんは7万人以上の小中学生を対象に8年間にわたって調査を行ない、「スマホ使用が学力を低下させる」という結果を得た。「平日のスマホ使用が1日1時間以上」のグループは「スマホ使用が1日1時間未満」のグループより明らかに学力が低い、スマホの長時間使用は睡眠時間や家庭学習時間よりも成績低下に影響する、などのデータを公表した2018年の著書『スマホが学力を破壊する』(集英社新書)は親たちや教育関係者に衝撃を与え、累計4万5千部を超えるベストセラーとなっている。

その続編となる『最新研究が明らかにした衝撃の事実 スマホが脳を「破壊」する』(集英社新書電子版)では、さらにショッキングな事実がリポートされている。世界的ベストセラーとなり、日本語版でも増刷を重ねている『スマホ脳』(アンデシュ・ハンセン著/久山葉子訳 新潮新書)でもスマホが私達の脳に悪影響を与えていることが示されているが、中でも深刻なダメージを被ると思われる子どもたちを守るためには何が必要なのか? 川島さんに聞いた。

――最新研究で明らかになったこととは? 

川島 なぜスマホが学力を低下させるのか、今回上梓した電子書籍は、その手がかりを示したものです。

5歳から18歳の児童・生徒224名の3年間の脳の発達の様子をMRI装置を使って観察したところ、スマホの長時間使用が子どもたちの脳の成長を阻害していることがわかってきました。詳しくは本書を読んでいただきたいのですが、特に、毎日のようにスマホでネットを見る習慣がある子どもたちの脳は、3年間、ほとんど成長していません。

たとえるならば、成長期の子どもたちの身体の発達が3年経過してもほとんど認められないようなものです。スマホ使用の習慣によって脳の成長が「止まって」しまっているのです。

これは非常に深刻な事態です。スマホが子どもたちに与えている悪影響をどう取り除いていくか、社会全体で考えないと手遅れになってしまいます。その危機感から、今回の電子書籍を出版することにしました。

――それほど大変な問題であるにもかかわらず、社会の反応はまだ鈍いそうですね。

川島 予想はしていましたが、前著の提言は産業界やテレビからはほとんど無視されました。一方、教育関係者からは大きな反響があり、講演依頼も増えています。教育現場の実感として、以前から子どもたちのスマホ使用に対する違和感や危機感があったのだと思いますが、それがこの本で確信されたということではないでしょうか。

――2020年1月、香川県議会で「中学生のスマホ使用は平日は1日60分以内にする」など子どものスマホ使用を制限する条例案が公表され、3月に可決、4月1日から施行されています。この条例に対しては批判が殺到したようですが......。
 
川島 私個人としては、法律で規制が必要なほど非常に深刻な状況だと認識しています。

小学校3、4年生を対象とした最新の調査では、年齢が低いほどスマホによる悪影響も大きいということが示唆されています。この子どもたちは0歳の頃からスマホなどのデジタル機器に接してきた世代で、スマホの所持率も上の年代の子たちより高い。子どもたちへのスマホの害が今後、さらにひどくなる可能性が大きいのです。子どもたちだけでもこのスマホ中毒社会から脱却させてあげられるよう、早急に手立てを考えないといけません。

――ただ、これだけスマホ依存が進んでいる状況で、スマホを使う時間を制限するというのは、かなりハードルが高いのでは?

川島 そこがよくわからないんです。私もスマホを持っていますが、どうがんばっても1時間以上使えないんですよ......。他にすることがたくさんあるというのもありますが、なぜ皆さんはスマホにそこまで依存してしまうんでしょうか? 私はLINEも使いますが、必要なやりとりをするのにたいして時間はかかりません。そもそも、スマホを眺めているだけの時間なんて、バカバカしくないですか。

――川島さんは、どのような解決策があると考えていますか?

川島 今の社会の中で「使うな」というメッセージはまったく現実味がないということはよくわかっています。たとえば、「使用時間が1時間を経過すると自動的にアプリ使用が制限されるアプリ」などが現実的な範囲かもしれません。こうしたアプリを作り、希望する児童・生徒やその家庭に無償で使ってもらうということも考えているのですが、アプリ開発の能力がある方に協力してもらい、ぜひ実現させたいですね。

――スマホの長時間使用で悪影響を受けた脳の「デトックス」には、読書がおすすめだそうですね。

川島 読書習慣が多いほど脳の発達が良いということも、296名の児童・生徒3年間の脳の発達を追跡した調査で明らかになりました。読書は、紙の本でも読書専用のデジタル機器でもいいと思います。ただ、他の情報が自動的に割り込んで集中力が削がれるスマホの読書アプリでは効果がないでしょう。

自分で読む読書だけではなく、読み聞かせもいいですね。読み聞かせで子どもの語彙能力や聞く能力が上がるということがわかっていますし、親子の愛着関係が強固になって子供の問題行動が減るという研究結果も出ています。さらに、それによって親の子育てストレスが軽減されるという効果もあります。

――今、教育現場ではICT教育が盛んに進められています。こうしたデジタル化によって、子どもたちがますますスマホ依存になってしまうのでは?

川島 私たちの調査で、スマホなどの情報通信機器で調べ物をしても「脳は活性化しない」ということがわかっています。情報通信機器を使った「学習」のやり過ぎは禁物でしょう。

スマホ使用を1日1時間以内に抑えられるような自制心のある子と、際限なくスマホを使ってしまう子とでは、成績に大きな差がついていくと思われます。やはり道具として使うためのリテラシーが非常に大事になってきます。全国の学校で、スマホ使用のリスク教育を今すぐ始めるべきです。

――今回の本では、子どもだけでなく、大人にとってもスマホ使用は害があることが示唆されています。

川島 まだ仮説ですが、スマホの長期使用は脳発達がほぼ完了した大人に対しても悪影響があるというデータが出ています。私たちが大学生1152名の脳MRI画像データを解析したところ、スマホを頻繁に使うなどインターネット依存傾向が強い大学生たちの大脳白質の密度は薄いという結果がわかり、不安・抑うつ傾向の高さや情動制御能力の低さにつながっているのではと考えています。

アルツハイマー型認知症との因果関係も示唆されており、スマホによる脳の「劣化」は大人にとっても他人事ではないと考えていただきたい。

――大人もなかなかスマホ中毒から抜け出せません。

川島 スマホ依存はむしろ、大人の方が深刻かもしれません。周りを見渡せば、電車の中でも皆、スマホしか見ていない。友達とランチしているときも、子どもと一緒にいるときもずっとスマホを見ている。それが正常な社会だという感性を持っている方がおかしいと思います。

大人の場合は自分で自分の人生を決めていく権利があるわけです。その結果として堕落していくとしても、それは自分の責任ということになるでしょう。私たちができるのは、ただ情報を発信することだけです。それをキャッチする人がキャッチできればいいと思っています。

『最新研究が明らかにした衝撃の事実 スマホが脳を「破壊」する』
川島隆太著 集英社新書・電子オリジナル版(紙の書籍は販売しておりません)。各電子書店にて好評発売中 ※電子書籍の価格は各電子書店にてご確認ください。