今はもう存在しない海賊版サイト『漫画村』。サイト内に張られた広告が収入源である構図は、ポスト漫画村でも変わらない

『鬼滅』ブームの裏で、日本のマンガ文化に大ダメージを与える事態が進行している! 国内最大の海賊版サイト『漫画村』が閉鎖したのは2018年4月のこと。しかしその後、漫画村の後釜を狙おうと"新規参入"が続出しているのだ。さらには、なぜかいまさらアナクロな「紙の海賊版」も登場して......。いったい何が起きているのか? 最前線を取材した!

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■ベトナム発の違法サイトが大増殖!

「マンガが無料で読める!」。こんな言葉で、SNSを中心に拡散されていったマンガの海賊版配信サイト『漫画村』。

スマホからパソコン、どんなOSからでも閲覧でき、2018年3月には月間1億アクセス級のモンスターサイトに急成長。全盛期の約半年間には3200億円以上の被害(タダ読みされた金額)をもたらし、サイト内の広告から数千万円の収益を得たとされている。

この悪い意味での急成長に対し、複数の出版社は、17年5月から刑事告訴に向けて動きだした。18年4月になると漫画村は事実上の活動停止になり、19年9月に漫画村を運営していた主犯格の星野路実被告が著作権法違反容疑で逮捕。

そして今年6月2日、著作権法違反と組織犯罪処罰法違反の罪により、懲役3年、罰金1000万円、追徴金約6200万円という判決が同被告に言い渡された。

国内の著作権法犯罪では最も重いものとなったこの判決。海賊版対策を行なう一般社団法人ABJの広報部会長の伊東 敦(集英社)は、こう話す。

「判決がメディアでも大きく報道され、【海賊版のアップロードは犯罪。大きな罰金・追徴金もある】ということが一般にも知られました。これは大きな進歩です。一方で、漫画村の出現により【マンガを無料でスマホから簡単に読める】ということも広まってしまった」

それまでの海賊版は"一部のマニア"が独自の知識を駆使して利用するケースが多かった。一般ユーザーには【ウイルスが入ってるかも!?】という疑念があり、利用を控える傾向だった。

しかし、漫画村のように【スマホのブラウザのみで閲覧可能】なサイトが、海賊版界隈(かいわい)をこれまた悪い意味でカジュアルにしてしまったのだ。

「漫画村が閉鎖されて以降もSNSには【漫画村みたいのほかにないの?】【新しい漫画村みつけました】といった投稿が多くみられます。18年にはSNS上で【漫画村に代わるサイト教えます。詳細はDMをください】と誘導し、ECのギフトカードを要求する事件までもが発生したんです」(伊東、以下同)

そして一昨年秋から"漫画村のクローン"とも呼べるサイトが増殖しているという。

「漫画村の全盛期は月間1億アクセス、それ以外の海賊サイトはせいぜい月間500万アクセスほどでした。しかし、ここ1年で急増し21年5月には海賊版の上位10サイトでの月間アクセスの合計が3億を突破しています。

今年1月、国内で『著作権侵害コンテンツのダウンロード違法化』が施行されたときは一瞬アクセスが減りましたが、海賊版サイトへの全体的なアクセスそのものは昨年から3倍以上に増えてしまった。

そして、注目すべきは上位3サイトの海賊版サイトのうち、2サイトがベトナムから発信されていることです」

これまで海賊版といったら中国のお家芸と思われてきたが、ここ一年でベトナム系が増殖した理由は?

「18年に中国人グループ『漢化組』が全国9府県警によって逮捕されました。彼らは、留学生として来日し、日本国内からマンガ、雑誌、ゲーム、音楽などの海賊版の配信を行なっていました。ベトナム系も、このケースと同様に日本に留学や就職をして、マンガや配信サイトの製作・運営知識を得た人間が増えたのではと推測しています」

外国語に翻訳された海賊版サイトはどれくらいあるのか?

「海外向けのサイトは600ほど確認しています。現地のSNSから翻訳者やレイアウターを募り、組織的に多数の作品を翻訳してアップする状況が続いており、こちらの被害も甚大です」

さらにネット上には新タイプの海賊版が出現している。

「マンガを動画に編集し、YouTubeなどの動画共有サイトへ配信されることも増えています。これも漫画村と同様にスマホから簡単に読めるのが特徴です」

■コミックスやグッズの海賊版も出現

右側が『鬼滅の刃』の「紙の海賊版」。左側の正規版に比べて明らかに1冊が薄い

海賊版が横行しているのはネット上だけではない。デジタル時代に逆行するような、こんな海賊版も登場した。

「『鬼滅の刃』のコミックスの海賊版、つまり"紙の海賊版"です。正規版コミックスをスキャンして製作されたもので正規版より薄いのが特徴。アマゾンマーケットプレイスやメルカリで、全巻セットが販売されていたのを確認しています。使われている紙の質から海外の工場で製造されたものと考えられています」

ただ、紙の海賊版は印刷と製本、さらに輸送コストが発生して、デジタルの海賊版に比べ圧倒的に手間がかかる。これを作る目的は?

「わからないんですよ。海賊版業者にしたら、儲けも少ないはずですから。ただ、オンラインの個人売買サイトが普及したことで、こういったコミックスの海賊版の販路ができてしまった。最近ではグッズやDVDも確認されています。一昨年は税関からの【正規品か確認してほしい】という集英社への問い合わせは2桁でしたが、今年はすでに300件を超えています」

なかには表紙から帯まで完全再現したものも

全方位で増殖し続ける海賊版。その対策の現状は?

「昨年6月の著作権法の改正では、海賊版への誘導リンクを張ったリーチサイト、海賊版をダウンロードする行為も違法になりました(今年1月に施行)。ただ、海外の海賊版事案も増加しており、海外の捜査機関や企業との協力体制も不可欠になってきました。これまでと同様に悪質な海賊版サイトから順に法的措置を取りながら、できる限りの施策を積み重ねていくことが海賊版の撲滅につながると考えています」

月並みな表現だが、「タダより高いものはない」。海賊版を放置することは出版社以上に、作家の収入にも大きなダメージを与え、回り回って「面白いマンガ」が少なくなることにもつながる。それは読者にとっても不幸なことなのだ。

警察により大量に押収された『鬼滅の刃』海賊版グッズ