『週刊プレイボーイ』で「挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが中国のエンタメ検閲について指摘する。

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北京冬季五輪のために世界中から選手や関係者が集まっている中国ですが、実は近年、海外のエンタメに対する"文化検閲"がエスカレートしています。昨年、中国の劇場で上映された外国映画のほとんどが旧作で、新作はわずか28%。少しでも刺激が強い(と当局が判断した)作品は公開されないようです。

なかでもアメリカ作品への締めつけは厳しく、中国での海外映画公開作に占めるシェアは2020年の46%から昨年は39%に減少。例えばディズニーのマーベル作品も、主人公が中国系で明らかに中国市場を意識して製作されたと思われるヒーロー映画『シャン・チー/テン・リングスの伝説』を含め、新作4本すべてが劇場公開されませんでした。

こうした検閲のなかには明らかにやりすぎなもの、意味不明なものもありますが、とはいえ確かに最近の欧米のエンタメ、とりわけ配信系のSF作品の多くには、独裁や差別への批判的視点がちりばめられています。というよりも、正確には「あらゆるものへの疑いの視点が込められている」というべきでしょうか。

例えば、先日Amazonプライム・ビデオで完結したSFドラマシリーズ『THE EXPANSE』。人類の宇宙進出を題材としながら、植民地支配、虐殺、資源と搾取、独裁政治と超富裕層の結託、経済格差とテロ......といったテーマが描かれ、アメリカ批判に見える部分もあれば中国批判に見える部分もある。こうした多様な視点は、"現体制の絶対正義"を大前提とする中国政府にとっては受け入れ難いかもしれません。

ただ、検閲が強まる一方で、興味深い事実もあります。中国では新型コロナ蔓延(まんえん)防止のためにロックダウンを実施すると、多くの市民が検閲の壁をくぐり抜けて海外のニュースや情報を入手しようとする傾向があり、それに関連して昨年はドイツに亡命した現代美術家で活動家の艾未未(アイ・ウェイウェイ)や天安門事件など、デリケートなトピックに関するネットのアクセスが増えたといいます。

これが完全に市民側の"ハッキング的な動き"なのか、それとも当局側があえて検閲を緩めた部分があるのかはわかりませんが、いずれにせよ、以前のような厳格な情報統制が困難な時代であることは間違いありません。

かつて共産党政権下のチェコスロバキアでは、プラスティック・ピープル・オブ・ザ・ユニヴァースというバンドに対する発禁処分が、後に革命を実現する反体制運動「憲章(チャーター)77」をかえって勢いづかせたといわれます。

時代も状況も違う今の中国の若者が、ストレートな反体制音楽に熱狂するとは思えませんが、それでもエンタメに対する検閲がより過剰さを増し、「当局のやり方はバカバカしい」「禁じられたものこそ面白い」という空気が広がれば、独裁体制の異様さが可視化されるでしょう。

つい最近も、1999年公開の名作米映画『ファイト・クラブ』が中国で配信される際、暴動が描かれるエンディングを丸ごとカットして「当局の意向に沿う」形に書き換えられた結末が字幕だけで流れるという、強引すぎる検閲が行なわれました。

これは権利保持者側が中国側の要求を丸のみした結果と思われますが、資本主義が生んだエンタメという"究極の享楽"の波及効果を中国政府が恐れていることの証(あかし)でもあるのです。

●モーリー・ロバートソン(Morley ROBERTSON)
国際ジャーナリスト。1963年生まれ、米ニューヨーク出身。レギュラー出演中の『スッキリ』(日テレ系)、『報道ランナー』(カンテレ)、『所さん!大変ですよ』(NHK総合)ほかメディア出演多数。NHK大河ドラマ『青天を衝け』に続き、TBS系日曜劇場『日本沈没―希望のひと―』への出演でも話題に!

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