XBB.1.5にはノルウェーに伝わる伝説の巨大タコ「クラーケン」の通称がついたXBB.1.5にはノルウェーに伝わる伝説の巨大タコ「クラーケン」の通称がついた

ついに日本国内にも入ってきてしまったオミクロン系の新たな変異株「クラーケン」(XBB.1.5)。昨年末にアメリカ国内で爆発的に増えたことで「感染力は史上最強か?」と、世界中の研究者が注視している変異株はこれまでと何が違うのか?「第8波」が収まっていない日本でも広がるのか?

■「クラーケン」は過去最高の感染力!

昨年末、アメリカで急速に広がっていることが報告され、注目を集めた新型コロナウイルスの変異株「XBB.1.5」。

SNS上でノルウェーに伝わる伝説の巨大タコ「クラーケン」の通称がつけられた新たな変異株は当初、アメリカ国内の新規感染者に占める割合が、わずか1ヵ月ほどで4%から40%を超えるまでに急増したとされた。

この驚異的な感染の広がりに「最強の変異株出現か?」と年明け早々、WHO(世界保健機関)や研究者、メディアも次々と取り上げ、世界に緊張が走ったのだ。

いったい、どんな変異株なのか?

新型コロナの研究グループ「G2P-Japan」を主宰する東京大学医科学研究所の佐藤佳(けい)教授は語る。

「クラーケンと呼ばれるXBB.1.5はオミクロン系の変異株のひとつで、名称のXは異なる種類のウイルスの遺伝子が混ざり合って生まれた『組み換え体』と呼ばれる変異株のことを意味します。

同じ組み換え体でも、グリフォンと呼ばれるXBBはすでに昨年から日本国内で確認されていて、ケルベロスと呼ばれるBQ.1.1と同様に強い感染力を持つことから、いずれも夏の『第7波』や冬の『第8波』をもたらしたBA.5の次に流行するオミクロン系変異株になると考えられていました。

実際、昨年の秋以降、アメリカやヨーロッパなどではケルベロスの感染が拡大し、日本でもじわじわとBA.5からの置き換わりが進んでいましたし、シンガポールなどでは主にグリフォンが広がっているという状況でした。

そうした中、昨年末にアメリカで突如、現れたのがグリフォンから変異したクラーケンで、短い期間に感染力の強いケルベロスを退け、北米で急速な広がりを見せていたため、従来の変異株よりもさらに強い感染力を持つウイルスなのではないかと注目されたのです」

ただし、1月6日に発表されたアメリカのCDC(疾病予防管理センター)の最新の報告によると、「新規感染者の約41%がクラーケンに感染」という昨年末のデータには統計に誤りがあり、実際にはその半分以下の約18%だったことが明らかになったという。そのためクラーケンの広がりも、当初、騒がれていたほどの爆発的な増え方ではなかったようだ。

とはいえクラーケンが、ケルベロスやグリフォンといった従来のオミクロン系変異株を上回る「最強の感染力」を備えている可能性は高いと、佐藤教授は警鐘を鳴らす。

「新型コロナの感染力にはウイルスの持つ『免疫をすり抜ける性質』と『ウイルスが細胞に結合する力』が大きく影響しますが、私たちの最新の研究では、すでにグリフォンの時点でも、ウイルスの免疫をすり抜ける性質は、ほぼマックスといっていいほど高まっていたことが確認されています。

そして、グリフォンの進化形であるクラーケンでは、それに加えて細胞に結合する力を高める方向でも変異している可能性が高いと、先行する中国の研究グループが指摘しています。

また、私たちが行なった実効再生産数(感染力を示す指標)の推計でも、クラーケンはグリフォンやケルベロスを大きく上回る感染力を持つことが示されています。

実効再生産数の差で見ると、クラーケンのケルベロスやグリフォンとの差は、昨年、世界的な大流行を引き起こしたBA.5とそれ以前のオミクロン株の差に匹敵するレベルですから、クラーケンがこれまでのオミクロン系変異株を大きく上回る、最強の感染力を持ったウイルスである可能性は非常に高いと思います」(佐藤教授)

■病原性はほぼ同じで、春には収束する?

また、佐藤教授らの研究によると、現在のオミクロン株対応2価ワクチンのグリフォンに対する感染予防効果は大きく低下している可能性が高く、その進化形であるクラーケンに対しても、ワクチンの感染予防効果はあまり期待できないという。

そのため、「ワクチン接種をしていてもブレイクスルー感染する可能性があるので、今後、クラーケンが広がった場合には、ワクチン接種の目的を感染時の重症化予防効果と割り切って考える必要が出てくるかもしれません」と佐藤教授は指摘する。

一方、クラーケンの病原性に関してはまだ十分なデータがないものの、病原性が高まったことを示す報告はなく、従来のオミクロン系変異株と同程度だと考えられている。

それでも感染者数が爆発的に増加すれば、それに伴って死亡者数も増えるというのが、一日に400人を超える死者が出る日もある「第8波」の教訓だ。そこに史上最強の感染力を持つクラーケンが加わると、どうなるのか?

「1月11日には日本国内でもクラーケンが確認されました。アメリカでの感染の広がりとその感染力を考えれば、日本でも今以上に感染者が増えるという厳しいシナリオは想定しておく必要があると思います。

その一方で、コロナの流行には季節性の要因も影響していると考えられるので、気温や湿度が低く一般的に呼吸器系の感染症が広がりやすい冬が終わり春に向かえば、少しずつ流行が収束する可能性もあるのではと、個人的に期待しています」(佐藤教授)

コロナ禍が始まってからすでに3年。新年早々、新たな変異株の心配なんて正直ゲンナリだが、今年もまた変異を続けるウイルスと付き合っていくしかなさそうだ。

いっそのこと、われわれ人類の側が「ウイルスの脅威」をすり抜ける方向に進化できればいいのになあ......。