渡辺雅史わたなべ・まさし
フリーライターとして雑誌や書籍への執筆をするほか、ラジオ番組やテレビの番組の構成作家としても活躍。趣味は鉄道に乗ること。国内の全鉄道路線に乗車したほか、世界20の国・地域の鉄道に乗車。
連載【ギグワーカーライター兼ウーバーイーツ組合委員長のチャリンコ爆走配達日誌】第53回
ウーバーイーツの日本上陸直後から配達員としても活動するライター・渡辺雅史が、チャリンコを漕ぎまくって足で稼いだ、配達にまつわるリアルな体験談を綴ります!
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ご存じのとおり、ウーバーイーツを使って配達される食べ物は、店で食べるよりも高くなります。料理の代金に加え、配達員へ支払う配達料とウーバーイーツが徴収する手数料が上乗せされるので、安い店でもテイクアウトする金額の3割増し。高いところだと5割ほど高くなると思われます。
ウーバーイーツを利用する方の多くは、スマホで注文できて、家まで配達してくれる手軽さから注文されていると思います。ですが、中にはそれ以外の面にひかれて注文される方もいます。
今回はそんな、特殊な事情(!?)でウーバーイーツを利用されている方のお話です。
個人的な事情で注文された方で印象に残っているのは、去年配達した二郎インスパイア系ラーメン店からの配達。
その店はカウンターのみ、5人ほど入ると満席となる小さな店。私のような身長180cm、体重90kgの大きな男が店の中へ入って行くには体をよじるなどの工夫が必要となります。
そんな店でアブラ、ニンニク、チャーシューがプラスされたラーメンを受け取り向かったのは、店から100mも離れていないマンション。置き配指定ではなかったので、部屋の前のインターホンを押し、しばらく待つと出てきたのは私よりもはるかにガタイの大きい男性。アブラたっぷりラーメンの入った袋をヒョイと受け取ると「ご苦労様です」と私に声をかけ、ドアを閉めました。
店の近所の方なので、おそらく知っているのでしょう。自分が店に行ったら物理的に入店拒否されてしまうことを。配達後、ウーバーイーツってすごいシステムだなと感心しました。
そんな方に配達した数週間後に受けた依頼で向かったのは、広島お好み焼きの店。店にかかる赤いのれんを見て「カープファンが集まりそうな店だな」と思いながら中に入ると、店内のテレビはナイター中継を放映中。どのテーブルからもカープの選手を応援する声が。赤い帽子を被った人やハッピを着た人もいます。そんな球場の外野席のような雰囲気のテーブルを通り、厨房手前の受け取り場所でお好み焼きを受け取り配達先へ。
1.5kmほど走って到着したマンションの入り口でインターホンを鳴らし、建物の中へ入り注文者の待つ部屋の前へ。今度はドア前のインターホンを鳴らし「ウーバーイーツです」と伝え、しばらくすると出てきたのは背格好も見た目も普通と表現するのがピッタリな30代ぐらいの男性。「ありがとうございます」と私に声をかけドアを閉めようとした時、私は顔を上げました。そして目に入ってきたものを見て、彼がウーバーイーツでお好み焼きを注文した理由がわかりました。そこには阪神タイガースの帽子や応援用のメガホンがあったのです。
おそらく注文された方は、この店のお好み焼きの味を気に入っているのでしょう。お好み焼きはデリバリーで注文するより、店でできたてを食べた方がおいしいもの。おそらく彼はそのこともわかっているのでしょう。そして、店内がカープファンの集う場所となっているのもわかっているのでしょう。
さまざまな事情で味わうことができなかった人たちが、あの店のあの味を楽しむことができる。配達後、ウーバーイーツに「不可能を可能にする」みたいな側面があることを知り、驚きました。
まるで『THE突破ファイル』ばりの「その手があったか!」と、自分でも気づかなかった活用法があるウーバーイーツ。今後、どんな使い方をしてくる方が現れるのか。最近はそんなことを想像し、ワクワクしながら配達しています。
フリーライターとして雑誌や書籍への執筆をするほか、ラジオ番組やテレビの番組の構成作家としても活躍。趣味は鉄道に乗ること。国内の全鉄道路線に乗車したほか、世界20の国・地域の鉄道に乗車。