国民の1日当たり摂取カロリーと1人当たりGDPをマッピングした図。FAO(国連食糧農業機関)によれば、日本の摂取カロリーはブルキナファソやニカラグアとほぼ同じ 国民の1日当たり摂取カロリーと1人当たりGDPをマッピングした図。FAO(国連食糧農業機関)によれば、日本の摂取カロリーはブルキナファソやニカラグアとほぼ同じ
あらゆるメディアから日々、洪水のように流れてくる経済関連ニュース。その背景にはどんな狙い、どんな事情があるのか? 『週刊プレイボーイ』で連載中の「経済ニュースのバックヤード」では、調達・購買コンサルタントの坂口孝則氏が解説。得意のデータ収集・分析をもとに経済の今を解き明かす。今回は「備蓄米放出問題や食料安全保障」について。

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18歳から27年間ほど体重が変わっていない。私は佐賀県出身で、近くの歯医者はヤブで、通うたびに激痛が走った。それで幼い私は甘いものを食べなくなった。これを「ヤブ医者ダイエット」と呼んでいる。

そのうち、毎日体重計に乗って眺めれば無意識に訴えて太らないと知った。もしプログラミングができるなら、体重計はWithings(ウィジングス)がおすすめ。ほかの健康管理アプリとも連携できる。私は体重計に乗ると自動的にGoogleスプレッドシートに転記し、分析してくれるように設定した。これで自分の摂取カロリー等も管理している。

もちろんカロリーがすべてではない。脂質こそ問題であるとする説は認識している。ただカロリーの摂(と)りすぎが健康を害するのは間違いなく、一つの尺度にはなる。食べ過ぎはダメだからね。

摂取カロリーについて、世界における日本人の位置にも興味をもつようになった。さまざまな調査があるものの、共通した結論をいえば、日本人はまったくカロリーを摂取していない。野菜や魚、大豆等の豆類中心の健康的な食生活で、油っぽい食べ物を避ける傾向にあるからだ。

没落したとはいえ、日本はまだまだ世界で有数のGDP先進国だ。少ないカロリーで国民一人ひとりが相当なGDPを稼ぎ出している。日本の製造業の省エネや効率化はよく知られているが、国民の食生活もおそるべき高効率だったのだ。

このことから、私は現在の備蓄米放出問題や食料安全保障について、一般とやや違う視点から二つの意見をもっている。

一つ目。カロリーベースの食料自給率がすべてではないとはいっても、最低レベルのカロリー摂取量であるにもかかわらず、その約38%しか自給できていない。国民は政府や農水省をもっと厳しく見るべきではないだろうか。

またカロリーと同時に、(とくに動物性)タンパク質の自給率が低い点を強調するべきだろう。炭水化物よりタンパク質等の栄養素が重要だからだ。

その上で、もちろん諦める手もある。なんらかの理由で農作物が作れなくなり、かつ輸入もできなくなれば、日本人は飢え、日本が圧倒的シェアをもつ半導体ウエハーなども作れなくなる。そうすると世界中の半導体生産が止まる。だから各国は日本を見放さないだろう、と。

二つ目。今度は前向きな話だ。日本人は想像以上に省カロリーでありながら、長寿命。これは最大の輸出コンテンツではないだろうか。全世界が日本なみの食料摂取で活動したら食料問題は解決する。米国人なんて日本なみの食生活になればそれだけで自然に痩せるし、健康的になれるんだよ。

また、日本はGDPの割にGHG(温室効果ガス)の排出も比較的少ない。理想の(?)"ギリギリ国家"なのだ。

あのヤブ医者こそが日本を世界最高効率の低エントロピー国家へと導いた、真の功労者だ......とはもちろん冗談だ。少子化も必然か......もちろんこれも冗談だ。

ただ、これだけ省エネルギーでこれほどの自動車などの製造物やアニメなどのコンテンツを産み出しているのはすごい。

結論。われわれは最小の消費、最大の文化国ニッポンだ。これ高カロリーな意見だなあ。

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坂口孝則

坂口孝則Takanori SAKAGUCHI

調達・購買コンサルタント。電機メーカー、自動車メーカー勤務を経て、製造業を中心としたコンサルティングを行なう。あらゆる分野で顕在化する「買い負け」という新たな経済問題を現場目線で描いた最新刊『買い負ける日本』(幻冬舎新書)が発売中!

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