ソチ五輪、女子スキー・クロスカントリーに出場している石田正子。彼女は北海道東部に位置する人口約2万人の町、美幌町(びほろちょう)の出身だ。
この小さな町からは、石田のほかに、鈴木李奈(バイアスロン)、藤村祥子(スピードスケート)の3人に加え、パラリンピック代表の久保恒造(バイアスロン)と、4人ものアスリートがソチオリンピック・パラリンピックに出場している。
町民は美幌出身選手の快挙に大喜び。土谷耕治町長も熱く語る。
「やはりわが町のスポーツを取り巻く環境、指導者の熱意の高さが、このような喜ばしい結果を生んでいるのだと思います!」
4人の中でも、今回で3大会連続出場となる石田は知名度、人気ともに美幌では別格。前回のバンクーバー五輪では日本長距離史上最高位の5位に入賞しているだけに、「今回はメダルを」と町民の期待は高まっている。土谷町長も「4年前と比べて下半身、肩周りの肉づきが違う! いやが上にも、ソチでの活躍を期待しないではいられません!」と興奮気味に語る。
石田の肉体改造について、同町教育委員会スポーツ振興グループの浅野謙司氏はこう証言する。
「石田が欲しいと言っていた最新鋭のトレーニングマシンを3年前、地元の企業が購入し、町に寄贈してくれたんです。以来、石田は地元に帰ると、そのマシンで徹底的に鍛えてましたね」
石田の少女時代の恩師で、47年間、美幌クロスカントリースキー少年団で指導をする山口幹夫さんは、こんな思い出話を漏らす。
「あれは正子ちゃんが中学2年のとき。全国大会に出場するにあたり、選手団でコースの下見に行ったんですが、正子ちゃんが迷子になりまして……。無事、戻ってきたんですが、私は思わず『何してたんだ!!』と怒鳴ってしまった。彼女は泣いてねぇ。私はそのことをずっと後悔してました。で、何年か前、彼女に『あのときはごめんね』って謝ったんです。そしたら、あのコ、『なんのことです?』って。うん、正子ちゃん、覚えてなくてねぇ」
8日のパシュートで10位、13日の10kmクラシカルでは15位に終わった石田だが、22日には30kmマススタートが行なわれる。30kmはバンクーバー五輪で5位入賞、W杯では3位に入ったこともある、石田にとってもっとも得意な距離。肉体改造に成功した美幌の星が、ソチの夜空に輝くことを、町民たちは願っている。
(取材・文/コバタカヒト[Neutral])