ベストタイムでは他を寄せつけず、ワンツーを独占して開幕前最後のテストを締めくくったメルセデスは余裕の構え

いよいよ本日、オーストラリアのメルボルンで開幕する2015F1世界選手権!

今年はホンダが7年ぶりにF1へと復帰。しかも80年代後半から90年代初頭にかけてF1を席巻した、あのマクラーレン・ホンダとしての参戦とあって、大きな期待と注目を集めている。

だが、ホンダのパワーユニットにトラブルが続出し、テスト走行ではフェルナンド・アロンソが不可解なクラッシュを起こし開幕戦欠場が決定。まさに最悪の状況での復活スタート。(詳しくは前編の記事→http://wpb.shueisha.co.jp/2015/03/14/45011/)

そこで気になる、チャンピオン争いの行方は? F1界のトリックスター、元F1ドライバー(汗)のタキ・イノウエこと井上隆智穂(たかちほ)氏が徹底予想!

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―チャンピオン争いは、どんな展開になりそうですか?

タキ 混戦のシーズンを期待しているファンの皆さんをガッカリさせるようで恐縮ですが、メルセデスが強すぎます

昨年も圧倒的な強さでチャンピオンに輝いたメルセデスですが、テストを見る限り、今年のメルセデスの速さはアタマひとつ抜けています。ヘタすると1988年に16戦中15勝を挙げたマクラーレン・ホンダの「セナ・プロ伝説」をメルセデスが再現する可能性もあるでしょう(汗)。

―そこをあえてライバルチームを挙げるとしたら?

タキ メルセデスのロズベルグが「このオフ、最も進歩したのはフェラーリだ」と語っているように今年、セバスチャン・ベッテルが移籍したフェラーリは去年より確実に良くなっています…、というか、「良くなりすぎている」という印象です。もしかしたら去年はわざと遅かったのかもしれません(汗)。

 

今年のフェラーリは昨年とは打って変わって、テストでは好調なタイムを記録。昨年は実は三味線を弾いてたのかも?

F1界のボスが、ロータスを救済?

―ええーっ、わざとぉ?

タキ 去年、親会社のフィアットはシーズン途中でフェラーリ会長のルカ・ディ・モンテゼモロをクビにして、その後、チームの主要幹部ほぼ全員をリストラ、すでに関係が悪化していたフェルナンド・アロンソも切りました。

これは単なる想像ですが、アロンソとチームの旧上層部を一掃したい新会長のセルジオ・マルキオーネ(フィアットCEO)が昨年、わざとエンジンの性能を落としていたのではと…(汗)。そう思いたくなるほど今年のフェラーリは急に良くなりました(汗)。ですが、そのフェラーリも正面からメルセデス勢に対抗できるだけの速さはないでしょう。これは、メルセデスエンジンを搭載するウイリアムズも同様です。

―そうかぁ…。

タキ あと今年、メルセデスエンジン搭載のチームで注目したいのはロータスですね。去年から金欠で青息吐息だったロータスですが、今年は資金難のウワサも聞こえてこない。新たな大口スポンサーが見つかったワケでもないのに、テストを見る限り、マシンもそれなりに速そうです。

コレが何を意味するかというと、おそらくロータスはF1界のボス、バーニー・エクレストンに救済されたんじゃないでしょうか。マクラーレンにも期待できず、ロータスも昨年のようにボロボロだとF1の人気がさらに落ちかねない。それを食い止めるため彼が出資して事実上、バーニーのチームになったんだと思います。

で、先ほど「メルセデスのひとり勝ちになる」と言ったのですが、僕は2015年が退屈なシーズンにならないようにバーニーがあの手この手で演出して、メルセデスの独走を防ぐなんらかの手立てを講じてくると見ています。その場合、メルセデスに絡んでくるのは、フェラーリとウイリアムズの2チームでしょう。そのちょっと後ろにロータス…かと(汗)。

マクラーレンがホンダに巨額の「請求書」?

F1界のボス、バーニー・エクレストン。資金難のロータスを救済(?)するなど、あの手この手でF1人気を保とうと画策?

―レッドブルとトロロッソのルノーエンジン勢はどうでしょう?

タキ 正直に言って、ルノー勢は今年も厳しいでしょう。親会社のレッドブルもそのへんはちゃんとわかっていて、今は次のエンジン供給メーカーを見つけるまでのつなぎ期間と割り切っていると思いますね。

ちなみに、その「次のメーカー」とは近い将来、F1参戦が噂されるフォルクスワーゲングループ傘下の企業だと思います。

―だとすると、マクラーレン・ホンダの現実的な目標はシーズン後半、レッドブル、トロロッソと対等に戦うコトですかね?

タキ はい。でも、マクラーレンはすでに頭を切り替えて、このピンチをチャンスととらえていると思いますね。ホンダに巨額の「請求書」を送りつけるチャンスだと(汗)。

―請求書? チャンス?

タキ 相手の弱みを握ったら、搾(しぼ)り取れるだけ搾り取るのがF1界の常識! おそらく、「ホンダのエンジントラブルで迷惑を被(こうむ)った」とか、「予定が狂って損害が出た」と難癖つけては、エンジンに直接関係ない項目の支払いまでホンダに請求書を送りつけ、徹底的に搾り上げるはずです(汗)。

ただ、それも「調教プレイ」のひとつとして受け入れるしかないでしょう。今のホンダには栄光の第2期ホンダF1を率いた桜井淑敏(よしとし)氏のように、F1チーム相手に対等に渡り合える人もいません。マクラーレンの従順な奴隷となることが、勝利への道だと信じて、ひたすら一流のM男を目指すのみです!(激汗)

―とりあえずはアロンソの病状が心配。第4期ホンダF1に幸あれ!

■タキ・イノウエ 日本人としては片山右京に次ぐ4人目のF1ドライバーなのに、いなかったことにされがちなタキ・イノウエこと井上隆智穂氏。歯に衣着せぬ語り口でF1裏事情を次々に暴露している

■『週刊プレイボーイ』12号「タキ・イノウエの2015F1激汗プレビュー」より

(インタビュー・構成/川喜田 研 撮影/桜井淳雄)