鹿島アントラーズがヨーロッパチャンピオンのレアル・マドリードを相手にギリギリまで追い詰めて称賛を浴びたのは昨年12月18日に行なわれたFIFAクラブワールドカップ決勝戦でのこと。
あれから半年以上の月日が流れ、7月22日、鹿島はそのレアルと同じスペインリーグの強豪セビージャと「Jリーグワールドチャレンジ」の舞台で対戦した。
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セビージャは2013-2014シーズンからヨーロッパリーグで前人未踏の3連覇を達成、昨シーズンのスペインリーグでも優勝したレアル、2位バルセロナ、3位アトレティコ・マドリードというスペインの3大クラブに続き、4位に食い込んでいる。
多くのサッカーファンは「あのレアル・マドリードを延長戦での決着にまで追い詰めたアントラーズがセビージャ相手にどこまでやってくれるのか?」と、その勝利に期待したはずだ。すると、その期待通りのパフォーマンスを見せて2-0のスコアで勝利。スタンドを埋めた約2万8千人の観衆が歓喜したのは言うまでもない。
その一方で、試合後の選手や監督がこの試合内容を冷静に捉えていたことが印象的だった。
「状況的に自分たちが有利なのはわかっていましたし、相手も遠い日本まで来てまだ身体(コンディション)もできてない状態。そこで僕たちは負けるわけにはいかなかったので、結果が出たことは良かったと思います」
こう語ったのはセンターバックとしてフル出場を果たした植田直通だが、確かに現在シーズン中のアントラーズと、シーズン前でキャンプ中のセビージャとではコンディション面で圧倒的な違いがある。
しかもセビージャは昨シーズンに指揮を執ったホルヘ・サンパオリ前監督からエドゥアルド・ベリッソ新監督にバトンタッチし、新シーズン開幕に向けたチーム作りは始まったばかり。「負けるわけにはいかない」とコメントした植田の真意もそこにあったようだ。
これについては、敗れたセビージャの指揮官ベリッソも「この10日間はハードなフィジカルトレーニングを積んできた。今日は前半と後半で違いが見られたが、そこには疲れといった要因があったと思う」と、多くの選手のコンディションが万全ではなかったことを認めている。
しかしベリッソ監督が語ったように、前半のセビージャは急激に運動量が低下した後半と違ってハイレベルなサッカーを見せていたのも事実だ。
とりわけ前半20分過ぎあたりからはほとんどボールをキープし、アントラーズ陣内でプレー。「前半は僕たちが走らされてしまって、なかなか(ボールを奪うのが)難しかった」とは試合後の植田のコメントだが、なんとか前からボールを奪いたいと必死に動き回るアントラーズの選手をあざ笑うかのように的確なポジショニングをとって正確なパスを次々とつなぎ、レベルの高さを披露していた。
勝利という結果に焦点を当てず、あくまでも自分たちのレベル差に着目
そこで戦略を変えて対応したのが、アントラーズの大岩監督だった。
「奪った後の攻撃の質、ファーストプレーの質、判断の質、ポジショニング、そういうものがよくなかった。理由はボールを奪った後にスピードアップしすぎてしまったから。そのためにボールロストも多かった」と、ボールを奪えない状況を分析し、無理に前からボールを奪いにいかず、守備ラインを下げて落ち着いて守り、カウンターを狙う戦略に切り替えた。
もちろんセビージャ側の疲労はあったが、この戦略変更の影響によって、後半の鈴木優磨の2ゴールが生まれたことは間違いないだろう。
しかも試合後の大岩監督は、勝利という結果に焦点を当てず、あくまでも自分たちのレベル差に着目。早速、試合直後、選手たちに今後の成長を促す言葉をかけたという。
「自分たちもあのレベルにならないといけない。昨年、レアル ・マドリードとああいうゲームをした後に評価をしてもらいましたが、決定的な差を感じていました。今回、その差を縮めるどころか広がったのではないか。(選手たちには)そういう話をしました」
試合後の会見で開口一番「セビージャの強さをまざまざと見せつけられたゲームでした」と振り返った大岩監督。日頃経験できないヨーロッパのクラブチームとの対戦を無駄にすることなく、真剣に戦い、勝負にこだわり、その上で試合内容にスポットを当てて選手のさらなる意識改革につなげるあたりは、とても新人監督とは思えない隙のなさと言える。
試合後、決勝点を決めた鈴木は欧州への挑戦を口にし、植田も普段戦っている「Jクラブとの試合と違った楽しさがあった」と振り返った。常に高みを目指す常勝アントラーズの伝統は、指揮官のみならず選手たちにも宿っていることが、このセビージャ戦を終えた後、改めて痛感させられる。
今年から設けられたJ1の「サマーブレイク」が終わり、今週末からリーグ戦がリスタートする。1試合消化の多い首位セレッソを4ポイント差で追うアントラーズは現在、2位。この試合で得た刺激と経験がさらにどう変化を及ぼすのか。
後半戦は、ますますアントラーズから目が離せない。
(取材・文/中山 淳 撮影/松岡健三郎)