髙田氏の社長就任によって、選手たちがよけいな心配をする必要がなくなったのが大きいと語るセルジオ越後氏

フロントがしっかりすれば、チームは変わる。強くなる。J1昇格を決めた長崎はそのお手本だろう。

毎年熾烈(しれつ)を極めるJ1昇格争いとJ2残留争い。なかでも今季、注目を集めたのが長崎だ。開幕前に経営危機が表面化。一時は選手の給与遅配も取り沙汰されるなど、J1昇格どころかJ3降格、最悪の場合はクラブ消滅の可能性もあった。

その立て直しの切り札として社長に就任したのが、長崎の大口スポンサーである「ジャパネットたかた」の創業者、髙田明氏。4月末に彼が社長に就任して以降、チームの成績は上向き、ついにはJ1自動昇格(J2で2位以上)を勝ち取ったのだ。

選手の頑張り、かつて横浜FCをJ1昇格に導いた高木監督の采配、サポーターの後押しなど今季の好成績にはいろいろな要因があるのだろう。でも、やはり髙田氏の社長就任によって、選手たちがよけいな心配をする必要がなくなったのが大きい。精神的に落ち着き、サッカーに集中できたと思う。普通のサラリーマンだって自分の会社が潰れるかもしれないとなったら、仕事が手につかなくなるはず。それと同じことだ。

長崎県といえば、高木監督の母校でもある高校サッカーの名門、国見高校が有名だけど、その割に地元のサッカー熱はいまいちなのかなという印象があった。実際、これまで長崎は観客動員で苦戦していた。でも、J1昇格を決めたホーム最終戦の盛り上がりは素晴らしかったし、ポジティブな形でJリーグへの注目を集めてくれたのはうれしいことだ。

ただし、本当に大事なのはこれから。J1で生き残るためのチームづくりをどこまでできるか。昇格したのはいいけど、来季すぐに降格ではせっかくの盛り上がりに水を差すことになる。結果とチームづくりの両立は簡単なことではないけど、J1で長く戦えるチームになってほしい。

そのためにも、まず補強が絶対に必要だ。条件や環境などを総合的に考えると、いきなり日本代表クラスの選手を何人も獲得するというのはなかなかハードルが高い。今季、枠を余らせていた外国人枠のフル活用が現実的な方策になるだろう。

長崎に目指してほしいことは脱・髙田社長

そして、もうひとつ長崎に目指してほしいことがある。ズバリ、“脱・髙田社長”だ。カリスマがあって、好感度も高くて、誰もが認める素晴らしい経営者だけど、彼が永久にクラブの面倒を見てくれるわけではない。過去、Jリーグでは親会社の経営方針に大きな影響を受けたチームがいくつもあった。だから、いつまでも彼ひとりに頼り切るのではなく、いかに地域を巻き込んで、長崎の色を出していけるかが重要になる。

今、長崎といえば、まず髙田社長とジャパネットを思い浮かべる人がほとんど。極端なことを言えば、選手よりも髙田社長のほうが人気は高い。今はそれですべてがうまく回っているのかもしれないけど、長い目で見れば、決して健全な状態とはいえない。

チームが好調なときだけスタジアムが満員になるのではなく、苦しいときにも応援してもらえるチームになれるか。Jリーグが掲げる「百年構想」ではないけど、目指すべきはそういうチームだと思うし、何よりそれは髙田社長自身も目指す、長崎の理想的な将来像なのではないだろうか。

(構成/渡辺達也)