試合は連ドラと違って必ず次回があるわけではない

物議を醸したポーランド戦のラスト10分に苦言を呈したのは小柳ルミ子さん。素人も玄人も一緒になって手に汗握り、議論できる。数々のドラマを生んだ4年に一度の祭典もいよいよクライマックスです。

タレントでエッセイストの小島慶子が、世間の気になる話題に思うあんなこと、こんなこと。

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私が家族と暮らしているオーストラリアでもサッカーのW杯は話題で、先日近所の薬局の薬剤師さんに「サッカー見てる? 日本はラッキーだったね」と言われました。「ほええ、そうなんですか」と間抜けな返事をしたらそれきりになったけど、もしかしたら彼はポーランド戦について議論したかったのかも。

どこの組織にもいますよね。要領のいい人。雲行きを見てひゅっと首をすくめてやり過ごし、難なく次に進んだり、ライバルと互いに目配せして取引を成立させたり。そんな同僚を見て、いけすかねえなと思うこともあるでしょう。でも本当は自分も、あんなふうに器用に立ち回れたらなという思いもあったりして。複雑です。誰だっていろんな打算をしながら生き延びなくちゃいけません。真っすぐ生きたくても、後ろめたさや悔しさや、割り切れない思いを抱えて渡世するのが世の常です。

だからこそ、せめてスポーツの世界では爽やかな、振り切った戦いを見たいと思うのでしょう。ポーランド戦では、最後の10分の日本チームの戦い方に賛否が分かれました。

「サッカーの魅力は...感動は...そうじゃないだろう? 必死に闘う姿じゃないのかなぁ」とブログにつづった小柳ルミ子さんのように、試合を見ている何十億というファンの期待に応えるべく、正々堂々と戦うべきだったという意見もあります。スポーツに格別な思い入れのない私としては、「え、でもベスト16に残れたならよかったじゃん」と思ってしまうのですが、そういうことではないんでしょうね。

情熱的な人生を歩んでいるルミ子さんがサッカーにもドラマ性を求めてしまうのはもっともかも。でも試合は連ドラと違って必ず次回があるわけではないんだし、ステージを上げて生き残ることを優先してもよかったんじゃないでしょうか。全然詳しくないのにこんなこと書いてすみません。でも詳しくない人も楽しんでいいんですよね? W杯って。

そんななか、日本代表の試合結果を3つとも的中させたという北海道小平町(おびらちょう)のミズダコのラビオ君が話題になりました。タコの知能の高さは知られています。かつてドイツで驚異の的中率を誇ったマダコのパウル君は、国際的な名声を得た上にメディアに引っ張りだことなり、余生は老衰で息を引き取るまで水族館で大事にされました。ラビオ君もスターになるのでしょうか、と思ったらなんと、すでに出荷! ベルギー戦は新しいラビオ君で占い、勝利を予想しましたが、残念な結果に。

個体の能力ではなく、占いダコというポジションに名づけが行なわれているあたり、日本のサラリーマンにも通ずる悲哀を感じます。この記事が出る頃には、2代目ラビオ君もお刺し身になっているのかな。

●小島慶子(こじま・けいこ)
タレント、エッセイスト。テレビ・ラジオ出演や執筆、講演とマルチに活動中。現在、日豪往復生活を送る。近著に『絶対☆女子』『るるらいらい 日豪往復出稼ぎ日記』(共に講談社)など