代表の試合があるときだけカンボジアに行って采配を振るうというのは無理があると語るセルジオ越後氏

つくづく本田は、ニュースを"つくる"のがうまいね。

ヨーロッパ各国のリーグが次々と開幕し、日本人選手が今季のスタートでどんなプレーを見せてくれるかと注目していたけど、アジアにいる彼がひとりで話題をさらった。

メキシコのパチューカを退団し、オーストラリアのメルボルン・ビクトリーに加入した本田が、カンボジア代表のGM就任を発表した。スタッフとテレビ会議などで情報を交換して代表チームの編成を行ない、試合時にはベンチに入って采配を振るう"事実上の監督"だという。

同一クラブでの選手兼監督は過去にも例がある。また、代表チームでもリベリアのウェア(現リベリア大統領)などは一時期、実質的な選手兼監督を務めていたといわれる。でも現役選手が他国の代表監督を務めるなんて聞いたことがない。

これまでにも本田は「自分もビッグクラブにふさわしい」(2012年、香川真司のマンチェスター・ユナイテッド移籍時)、「W杯で優勝する」(14年ブラジルW杯前)といったビッグマウスで注目を集めたかと思えば、オーストリアのクラブ(2部・SVホルン)の買収、投資ファンドの立ち上げなど、ピッチ外の行動でも話題を振りまいてきた。メルボルン加入前にも、オーバーエイジ(OA)枠での20年東京五輪出場に名乗りを上げている。

本人がどこまで意識しているのかはともかく、メディアの喜びそうなネタを次から次へと提供してくれる貴重な選手だ。間違いなくサッカーへの注目度を上げている。

ただ、本田の場合は煽(あお)るだけ煽っておいて、尻すぼみに終わることも多い。今回の件も「大丈夫かな」というのが、僕の率直な感想だ。

指導者ライセンスの有無は本質ではないし、彼ほどのキャリアを持った選手が、指導者を目指すのは素晴らしいこと。

でも、現役選手のまま、代表の試合があるときだけカンボジアに行って采配を振るうというのはやはり無理がある。現場の監督(昨季までパチューカで本田の通訳を務めていたアルゼンチン人のフェリックス氏)もやりづらいだろう。

どこまで長期的なビジョンを持っているのかはわからないけど、やり方を間違えば、カンボジアのサッカーに対して失礼なことにもなりかねない。本気で監督業をやりたいのであれば、現役引退後、もしくは自分のクラブ(SVホルン)でプレーしながらやる。そちらのほうが自然だ。

もちろん、本人はそうしたリスクも承知の上で決断したのだろう。失敗したら引退してもいい。そのくらいの覚悟を持っているかもしれない。

いずれにしても、二足のわらじを履くと決めた以上は、まずはオーストラリアで現役選手として活躍することを第一に頑張ってほしい。選手として自分のクラブで結果を出せなければ、所属クラブもいい顔はしないだろうし、代表監督としての威厳も保てない。

また、現実問題として彼の最近のプレーぶりでは東京五輪出場は難しい。五輪代表を率いる森保監督は「(OAへの立候補は)大変ありがたいし、本当に心強い」と言っていたけど、実際に本田を呼ぶかといえば疑問。OAは知名度の高さで選ぶわけではないからね。だからこそ、選手としての価値をもう一度高めること、今後の本田にはそこが一番大事になる。