「日本最北端わっかない平和マラソン」を2位で終えた川内優輝氏

今年4月にボストンマラソンを日本男子として31年ぶりに制した川内優輝(かわうち・ゆうき/31歳、埼玉県庁)。その直後、来春のプロ転向を明言したものの、すでに出場権を手にしている来年9月の東京五輪代表選考会(マラソングランドチャンピオンシップ、以下MGC)に臨むか否かは態度保留のまま。

一方で、10月7日にはボストンマラソンと同じ世界6大マラソンのひとつ、シカゴマラソンに出場予定。共に参戦する大迫 傑(すぐる/27歳、ナイキ・オレゴンプロジェクト)らとの対決に注目が集まる。

市民ランナーからプロランナーに向けての準備を進める川内だが、これまで同様に日本各地の市民マラソンにも参加している。

川内はいったいどこへ向かっているのか。シカゴマラソンを約1ヵ月後に控えた9月2日、第1回「日本最北端わっかない平和マラソン」を走り終えた直後に、現状を聞いた。

――今回は終盤に急ブレーキして、過去85回のマラソンでもワーストとなる2時間24分55秒でフィニッシュ。順位も2位。何があったのですか?

川内 向かい風が強く、想像以上にキツいレースで、38kmで体が痙攣(けいれん)を起こしてしまいました。途中までは2位の選手に2分以上も差をつけていたのですが......。今年の夏は、暑さのせいもあって思うように練習できない部分もありました。ただ、プロになればこういう情けない走りはできないですし、来年もう1回来てリベンジしたいと思います。

――プロ転向に向けて、スポンサー契約などの話も多く来ていると聞きました。

川内 お話はいくつかいただいています。ただ、マラソンの場合はメジャーレースになれば、ユニフォームにスポンサーロゴは1社しかつけられないので、ロゴがつけられないかもしれないというお話をさせていただいたら、半分くらいの話が流れました(笑)。

スキーやトライアスロンの選手は、いくつもスポンサーのロゴをつけて競技に出ていますが、マラソンはそれができないんです。それに、仮にスポンサーさんの所属になれば、自由にレースを選んで出場できない可能性もあるでしょうし、それは私が望んでいない形でもあります。

なので、どこにも所属しない可能性もあるかもしれません。世界にはレースの出場給や賞金だけで活動しているランナーもいますし、ケニアやエチオピアの選手の中には、例えば無地や胸に国旗だけ入れて走っている選手もいます。私はそういうプロランナーもカッコいいかなと思いますけどね。

■来夏のドーハ世界選手権も照準に

シカゴマラソンには川内や大迫のほか、トラック競技である5000m&10000mの元世界王者でマラソンに本格転向したモハメド・ファラー(イギリス)やリオ五輪の銅メダリスト、ゲーレン・ラップ(アメリカ)、2017年ロンドン世界選手権王者のジョフリー・キルイ(ケニア)らもエントリーしており、世界のトップランナーとの勝負も注目される。

――シカゴではボストンマラソン王者として迎えられます。

川内 単純にランナーとしては楽しみなのですが、ボストンの優勝者としてひどい走りはできないというプレッシャーもあります......。それに想定外にも2時間5分半に合わせたペースメーカーがつくようなのですが、今の私の状態ではとてもそのペースに対応できません。だから、まずは第2集団あたりについていくことになると思います。

ボストンほど周到な準備はできていませんし、走る前からこんなことを言ってはいけないのですが、出るタイミングを1年早まったかなという思いもあります(苦笑)。

――となると、今はどこに照準を合わせているのですか。

川内 12月には福岡(国際マラソン)に出る予定ですし、その頃には調子も上がってきているはず。みんなMGCばかり見ていますが、実は福岡は来夏のドーハ(カタール)世界選手権の選考も兼ねていますから。今の状態ではこんなことを言うのも恥ずかしいですが、そこでいい結果を出せば、ドーハにつながるんです。

――あれっ、昨年のロンドン世界選手権を最後に、日本代表からは引退したのでは!?

川内 それは、ドーハも東京も暑いというのが理由でした。でも、ドーハの世界選手権は昼間の暑さを考慮して、マラソンは深夜0時スタートに決まったんです。深夜なら直射日光もなく25℃前後まで下がると聞いています。それなら可能性あるじゃないですか!

それに、競技者として最終的な目標にしているのが、21年のユージン(アメリカ)世界選手権でメダルを獲ることなんです。そのためにも、ドーハを経験しておきたいんです。なぜユージンかといえば、ロンドンと似た気候で朝夕は涼しく、私に合っていると思うんです。

――では、あらためて来年のMGC出場の可能性は?

川内 なんとも言えないですが、やはり今はそんなことよりも、涼しい所で自分の記録を伸ばしてみたいという気持ちのほうが強いです。来春以降は仕事から離れ、走ることに専念できますから。

夏場は北海道に移住する計画を考えています。夏場に涼しい所で合宿できたら、秋以降にとんでもない走りができるんじゃないかと自分自身に期待しているんです。今までは仕事があったので長期の合宿なんてできなかったですから。

――実業団選手は夏場、涼しい所で合宿しています。

川内 それがホントにうらやましかったんです。ただ、東京五輪を目指すのであれば、それでいいのかなとは思いますよね。真夏の東京五輪で戦うには、絶対に暑い所で刺激を入れていかないと勝負にならないですから。私はそれがいやだから夏場は涼しい所に引っ込みたいんです(笑)。

――市民ランナーとしてやり残したことはないですか。

川内 できることはやりました。あとはプロだと胸を張れるように、少なくとも来春までにはもう5年以上更新できていない自己ベストに近いタイムを出せるような状態に持っていければと思います。

●川内優輝(かわうち・ゆうき) 
1987年生まれ、東京都出身。学習院大学を卒業後、埼玉県庁へ。市民ランナーとして力を伸ばし、2011年、13年、17年の世界選手権に出場。今年4月には伝統のボストンマラソンに優勝し、直後に来春のプロ転向を表明。自己ベストは2時間8分14秒